メアリー・ウォード著 『望遠鏡』(3)2006年03月28日 06時33分00秒

本書の挿絵はすべて夫人自らの手になるもの。全ていかにも女性らしい、淡い彩りのスケッチです。

(なお、初版の方は、地紙がかなり褐変しているので、挿絵はすべて1876年の第4版から採ります。)

惑星も二重星も、望遠鏡で覗いた姿そのままに、小さく小さく描かれているのが、何とも愛らしい。

愛らしさばかりではありません。写真だと分かりにくいですが、上の土星は薄い山吹色の彩色に、かすかな縞模様も描かれ、望遠鏡で見たイメージとして非常にリアルです。彼女がよく訓練された目の持ち主だったことが窺い知れます。

★    ★    ★

「さあ、土星を見てみよう。見えた!天文学の本で見たあの惑星だ。......確かにそれはとても小さく見える。しかし、土星をはじめて見たとき、これまで単に聞くだけだった対象を今この目で見ているのだという感覚を、我々は常に鮮烈に味わう。現実の惑星の美しさもまた描かれた絵には真似のできないやり方で観測者を圧倒せずにはおかない。」

★    ★    ★

一読して軽い既視感にクラリとします。
観望家の喜びは、19世紀も21世紀もまったく変わらないようです。

コメント

_ J ― 2014年06月09日 18時57分03秒

あまりいい状態ではなかったけれど、ゆらゆら揺れる小さな土星を初めて見た時のことを思い出します。とても単純な表現ですが、ああ、本物なんだって。本物だけが持つ『圧倒』、その言葉そのものの感覚。

_ 玉青 ― 2014年06月10日 05時29分35秒

何事も本物の印象は圧倒的ですよね。
そして、それを他ならぬ自分の目と心で捉えることに大きな意味があるのでしょう。
そういう私自身、最近は他人の頭や目を借りて、それで事足れりとすることが余りにも多くて、改めてウォード夫人の気概に学びたいです。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック