イライジャ・バリット著 『宇宙の地理学』(1)2006年05月18日 05時58分02秒

Elijah Burritt
The Geography of the Heavens and Class Book of Astronomy.
New York, Huntington & Savage, 1843 (5th ed.)

教科書というのは、あまり面白くないのが相場ですが、そこには自ずと時代の刻印も押されています。

掲出したのは、イライジャ・バリット(1794-1838)による『宇宙の地理学』(1833初版)。

バリットは天文学者として将来のある人でしたが、この本の出版後まもなくして、テキサス共和国(1836年メキシコから独立、1845年合衆国に併合)への遠征旅行中に黄熱病で客死しました。

著者の死後もこの本は売れに売れ、H・マッティソンによる1856年改訂版の序には、「改訂以前にすでに25万部が売れた」とあります。当時としては大変なベストセラーで、アメリカにおける19世紀前半の代表的テキストといえるでしょう。

全体にまじめな記述が多いのは教科書だから当然ですが、いっぽうには当時の怪しげな説も随所に引用されています。

★火星が赤いのは大気の層が極端に厚く、濃いからである。

★最近の観測によれば、土星の輪は液体から成る。…この液体の輪はいつか土星に落下し、大洪水を引き起こすだろう。地球の輪がノアの洪水を引き起こしたように。

★太陽の輝きは、太陽大気中に浮かぶ光る雲から生まれる。黒点は大気の隙間から見える太陽の本体に他ならない。

★月の東部には大都市があり、赤道のすぐ北側には運河が伸び、また植物の繁茂している地域もあるらしい。

…等々。これも時代でしょう。