ハートネス望遠鏡2006年07月01日 09時35分23秒


昔の絵葉書から。

最初は「?」と思いましたが、望遠鏡と観測室です。完成は1910年。コンクリート製のオブジェのような観測室の上に、ちょこんとUFOのような「屋根」が乗り、そこから口径25センチの屈折望遠鏡が大砲のように突き出ています。

UFOの頂部は正確に天の北極を指しており、UFO全体が電気駆動で回転する仕組み。つまり、この建物は、それ自体が巨大な赤道儀式架台なのです。望遠鏡の基部には、光軸を直角に曲げるプリズムが入っており、筒先をどの方向に向けても、接眼レンズの位置を変えることなく、安楽に観測できる構造になっています。

この奇怪な望遠鏡を作ったのは、各種の工作機械で富を築いたジェームズ・ハートネス(1861-1934)。彼は一時バーモント州知事も務めた人物ですが、この望遠鏡を見ても分かるとおり、なかなかの奇人。

バーモント州スプリングフィールドにある、彼の元邸宅は、現在いわゆるベッド・アンド・ブレックファーストの宿屋になっており、件の観測室も健在です。

ハートネスは外気に曝されるのが嫌さに、本邸からこの観測室や、独立して建てた仕事部屋まで行くためのトンネル網まで築きましたが、宿泊客はそのトンネルツアーも楽しめる由。併設された「ハートネス=ポーター天文博物館」にも興味をそそられます。

詳しい紹介記事はこちら。
http://www.hartnesshouse.com/hartness-history.shtml

パーキンス天文台2006年07月02日 21時25分24秒


モノクロイメージが続いたので、カラフルな絵葉書を1枚。

布目調の台紙に刷った、いわゆるリネンタイプの絵葉書で、裏面には1941年の消印が押されています。

写っているのはオハイオ・ウェズレヤン大学のパーキンス天文台(オハイオ州デラウェア)。

まるで絵本の1頁のようですが、よく見ると写真に彩色を施したもの。背景の雲は手書きです。明るい色使いに、アメリカン・フォークアートっぽい感性を感じます。

小川のせせらぎ。木立の向こうに広がるきれいな芝生。可愛らしい天文台の上には青い空。そこを白い雲がゆっくりと流れていきます。

なんとのどかな…。
(しかし、現実には半年後に真珠湾攻撃が迫っていました。)

パーキンス天文台(2)2006年07月03日 06時31分11秒


パーキンス天文台の正面入り口。
ホワイト・ボーダータイプの絵葉書です(1920年代前後)。

正面左右には古風な天使の像が立ち、ドアの上の丸天井にも何やら宗教的なモチーフが彫刻されています。ここは1923年に建設が始まった、比較的新しい天文台ですが、そのデザインはロマネスクの教会建築を連想させます。

天文台という比較的新参の建物の建築史は、さまざまな試行錯誤の歴史であり、たとえば以前見た、エディンバラ天文台(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/03/01/273091)は、19世紀初頭の新古典主義の嗜好に応じて、ギリシャの神殿様式をそっくりまねて建てられました。そして、このパーキンス天文台のように、さまざまな教会建築の意匠を取り入れた例も目に付きます。

ただ、天文台の建築史というテーマはなかなか興味深いのですが、残念ながら、あまり研究されていない分野のようでもあります。(以前、天文史関係のメーリングリストで、そんな話題がありました。)

パーキンス天文台(3)2006年07月04日 06時33分12秒


これも1920年代を中心に流行したホワイトボーダータイプの絵葉書。

パーキンス天文台は、外見は古風でも、中身は最新の設備を誇り、1931年当時世界で3番目に大きい望遠鏡(69インチ=175センチ反射望遠鏡)を有していました。

架台は堂々たるイギリス式赤道儀。写真では望遠鏡本体よりも、巨大なセメント製ピラーと車輪型のバランスウェイトの方が目立っており、何やらモダンアートの作品のようにも見えます。(紗のかかった画面もアートな雰囲気。)

この機材は、オハイオ・ウェズレヤン大学という小さな学校(4年制の教養学部大学―いわゆるリベラル・アーツ・カレッジで、日本でいえば短大に似た位置づけ)が、教育目的で使うには、明らかに大きすぎる望遠鏡であり、そのためパーキンス天文台は長いことオハイオ州立大学の管理下にありました。

その使用契約が1998年に打ち切られたため、現在パーキンス天文台では一般からの寄付を募って、運営基金設立に奔走中…と、同天文台のサイトはアナウンスしています(http://www.perkins-observatory.org/)。

どこも台所事情は大変なようです。

クラム社版「太陽系の図」2006年07月05日 06時42分23秒

天文趣味を言うならクラシックな星図も欠かせません。

古星図というと、いっぽうには非常に高価な品もありますが、他方には安価な駄菓子っぽい品もあります。

19世紀後半~20世紀初頭は、帝国主義による列強割拠の時代だったせいか、大衆向けの地図帳が妙に流行った時代でもあります。そして当時の世界地図には、星図の類も含まれているのが常でした。「居ながらにして世界を一覧する」ことが地図帳の醍醐味とすれば、目が宇宙にまで向かうのは至極当然であり、今の地図帳にそれがないことの方が、むしろ奇妙だとも思えます。

現在、市場にはそうした古い地図帳からばらした星図が大量に流通しており、気軽に額装して楽しむ目的で購入されています。
 
掲出したのは、アメリカの老舗地図会社・クラム社が出した地図帳のバラ物で、“The Solar System”と題した1枚。紙面サイズは約 31 x 28 cm(写真は余白部分をトリミングしてあります)。1891年の出版。

George Franklin Cram (1842-1928)は、1880年代から一般向け地図帳の出版をはじめ、大衆の嗜好に適って大層売れたらしいのですが、それらの中にも当然星図類が含まれていました。

クラム社の星図2006年07月06日 05時53分43秒

昨日につづきクラム社の星図。
こちらは1899年に出た地図帳に含まれる星座図です。

薄いブルーの地に、おとめ座、しし座など春の星座が、伝統的な星座絵と共に刷り込まれています。

機械刷りで雅趣は乏しいですが、これも確かに「19世紀の絵入り星図」には違いありません。

イライジャ・バリット著 『宇宙の地理学』(3)…星図編2006年07月07日 05時52分36秒

Buritt の『宇宙の地理学』 Geography of the Heavens (1835初版)については、以前も取り上げました。

http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/05/18/369809
http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/05/19/371042

この本は副題に「Accompanied by Celestial Atlas」とあり、その付図として作られた手彩色の星図を今でもネット上でよく見かけます。19世紀前半にさかのぼる古星図としては、最も入手しやすいものの1つで、古地図や版画を扱う店で、たいていは1枚ごとに切り売りされているのが現状です。

先年、たまたまセット物が売りに出ていたので購入。保存が悪く、ボロボロの状態でしたが(だから私でも買えたのです)、あまりにも不憫だったので、裏打ち、染み抜き、秩(外箱)の製作を専門の業者に依頼しました。額装できるように、あえて再製本はせずにバラバラの状態のままとしてあります。

紙面サイズは、42 cm × 36.5 cm と、かなり大判です。
伝統的な図柄は、クラシックなムード十分。くすんだ地紙と淡彩の色合いも古雅な味わいを醸し出しています。

なお、最近この星図の復刻版が出たという話をチラッと聞きました(うろ覚え情報)。

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今日は七夕。当地では、夜には晴れるという予報でした。予報が当りますように。

イライジャ・バリット著 『宇宙の地理学』(4)…星図編その22006年07月08日 12時00分30秒


順序が逆になりましたが、このアトラスの書誌的情報を掲げておきます。

Elijah H. Burritt,
ATLAS, designed to illustrate THE GEOGRAPHY OF THE HEAVENS. New edition.
New York, F. J. Huntington & Co., 1835.

内容は、以下の8枚の星図から成ります。そのうち家蔵本では(2)~(8)の7枚が手彩色です。

(1)太陽系各天体の相対的な大きさ、距離、および位置の説明図
(2)1月~3月に見える星座
(3)同10~12月
(4)同4~5月
(5)同7~9月
(6)南極周辺で一年中見える星座
(7)北極周辺で一年中見える星座
(8)メルカトル図法による全天平面図

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結局夕べは雲にたたられ、織姫・彦星は見えずじまい。
おぼろ月だけが恨めしそうに顔をのぞかせていました。

ラジオメーター2006年07月09日 04時48分14秒

ラジオといってもあのラジオではなく、ここでは語本来の意味、すなわち「放射」の意です。したがって全体の意味は「放射計」。
(辞書によると、あっちのラジオは、radiotelegraphy の略だそうです。)

光が当ると、羽の黒い面と白い面に温度差が生じ、結果として、両者に接触する気体分子の運動量にも差が生じるため羽が回転する…という仕組みのようです。

硝子のバルブに閉じ込められた小さな羽根車は、直射日光を受けると、おもちゃの風車のように物凄い速さで回ります。しかし、私がいっそう好きなのは、深夜、スタンドの明かりを受けて、ゆっくりゆっくり回転する姿です。

光エネルギーを得て、いつまでも動き続ける不思議な球体。そうだ、これはまさに地球と生命の隠喩だ…と思いながら毎日眺めています。

鳥の卵2006年07月10日 06時19分46秒


部屋の隅にこんな標本が掛かっています。

「北米産鳥類の卵」と題された卵殻標本ですが、実は本当の卵ではなく、精巧に作られた陶製の模型というのが味噌。目を凝らさないと分からないぐらい、よくできています。例によってeBay で買いましたが、メーカー名等の表記がどこにもなく、製品としての詳細は不明。

長径でいうと、1センチちょっとのノドアカハチドリ(ruby-throated hummingbird)から10センチ近くあるアビ(loon)まで、全41種類が納められています。

アビとはあまり聞きなれぬ名ですが、アビ目アビ科の水鳥で、今ウィキペディアで見たら、系統的にはペンギンに近い鳥らしいです。(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%93%E7%9B%AE

ところで、この標本。理科室趣味的には、なかなか素敵なアイテムですが、実際鳥のことをどれだけ知っているのか改めて自問すると、いささか忸怩たるものがあります。現役の理科少年だったころでも、鳥類は関心の外にありましたし、成人してから「にわかバードウォッチャー」を志した時期もありますが、そのマイブームもすぐに去ったため、鳥のことは未だによく分かりません。