『二十世紀最新天文図志』…天文する大清帝国2006年09月01日 23時29分50秒


★英国希特著
 二十世紀最新天文図志
 上海、山西大学堂訳書院、光緒32年(1906)

★原著:
 Thomas Heath
 The Twentieth Century Atlas of Popular Astronomy
 初版 1903年


これは近所の古本屋に転がっていたものです。
ヒースの原著は古書市場でもおりおり見かけますが、清朝末期に上海で翻訳出版されたこの本は、なかなかの稀本。

どぎつい黄色の装丁は中国ならではの色彩感覚でしょう(原著は青のクロス装)。

当然中身は全て漢文です(まだ文章語として現代中国語は使われていませんでした)。

「第十三章 彗星流星 彗星之体。形似雲霧。首明若星。尾長有光。以其形近於彗。故名曰彗星。其首明処為核。核之質甚稠密.....」

字面を追えば意味は何となく分かりますが、旧字体の羅列を見ていると、どことなく安倍晴明時代の怪異な天文書を読んでいるような気分にもなります。

(この項続く)

『二十世紀最新天文図志』 (その2)2006年09月02日 20時23分42秒

この本の圧巻は一連のカラー図版(石版画)です。
口絵を含めて、全部で22葉の多色石版画が収められており、眺めるだけでも楽しい本となっています。

掲出したのは、日食・月食の図。
見開きフルオープンできるように独自の製本がされています。

当然、中国で新たに版を起こしたわけですが、オリジナルに較べても遜色のない仕上がりです。

版元の「山西大学堂訳書院」については、何ら知るところがありませんが、この出版事業には相当力が入っていたように思います。当時の中国の出版文化の水準がうかがえる点でも、興味深い一本です。

『二十世紀最新天文図志』 (その3)2006年09月03日 22時01分37秒

同書よりカラーリトグラフをもう1枚。
挿絵中には、もっとカラフルな図もありますが、単色ながら特徴のある図を掲げました。

夜空を明るい水色で表現しているところが異色の星雲図。
星雲が、文字通り青空に浮かぶ白雲のように描かれています。
澄んだ秋空を見上げるような爽やかな印象の作品。

上段の左右はいずれもオリオン座大星雲(猟戸座大星気)で、左は30分露出、右は10分露出をかけたもの。

下段の左はプレアデス星団(昴宿座星気)、中は白鳥座のベール状星雲(天鵞座星気)、右はアンドロメダ大星雲(仙女座大星気)。

西洋星座の中国語名は、言い得て妙なものが多いですね。
他にもペルセウスは英仙、ケフェウスは仙王、カシオペアは仙后と言うそうです。仙の字が目立つのは、道教的な感覚の名残でしょうか。

スパイグラス(1)2006年09月04日 23時54分55秒


以前、手軽な光学アンティークとしてオペラグラスを取り上げましたが(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/04/25/340842)、スパイグラスもオペラグラス同様、時代のわりに値段の付かないアイテムです。

これは、最近のリプロダクションだけでなく、本物のアンティークも同様で、eBayでも捨て値に近い価格しか付かないのが実態だと思います。

その原因の一つとして、スパイグラスの時代鑑定はきわめて困難だという事実があります。

スパイグラスは、1800年代から1900年代まで全くその外形に変化がなく、メーカー名の刻印がないかぎり、いかなる熟練の鑑定士でも外見的特徴だけからその素性を判別することはできないと言われています。また、頼みのメーカー名にしろ、後から偽って彫りこむことが容易であり、また商策として頻繁に行われたために、事態はいっそう複雑化しています。

それでも、光学的完成度やオーセンティシティを度外視して、単に古い時代の息吹を感じようという目的であれば、簡単に手に入るアイテムであり、理科趣味の古玩好きにとっては狙い目かもしれません。

(ヤフオクだと、海外の相場ならせいぜい数千円の品にウン万円もつけている古物業者を見かけたりして、ムムッと思うこともあります。)

* * * * *

上は、eBayで見かけた写真を勝手に使わせてもらいました(ごめんなさい)。1858の年記が入っているものの、いかにもフェイクくさい品。

スパイグラス(2)2006年09月05日 21時15分46秒


以前購入したスパイグラスです。鏡筒は木製で、伸縮部は真鍮製。細部の意匠から19世紀に遡る品と見て間違いないと思いますが、メーカー名が曲者。

伸縮部には“Dolland London”と刻字してあります。よくよく見ると、"Dollond" ではなく、"Dolland"。すなわちドロンド製品のまがい物で、こうした品は既にドロンドの同時代から横行していたようです。(ドロンド社については、こちらを参照してください。http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/04/27/343817

「アディドス」やら「チャンネル」やらのパチモンは、古今東西を通じて普遍的な存在であったことを知って、思わず苦笑い…といったところ。

さて、そんなわけでモノのほうは怪しげなんですが、この品は三脚付きというのがポイントです。

三脚は二本接ぎになっていて、継ぎ足すと写真の2倍の長さになります。三脚自体は測量器用の転用で、望遠鏡用アタッチメントは手製。たぶん以前の所有者の手わざでしょう。とても手間がかかっています。

三脚には、"SIMENS BROTHERS & Co Ltd LONDON 1915 No.364" と刻字されており、望遠鏡より時代は下がるものの、こちらもなかなかの年代物。

オークションでは、この手の三脚だけでも結構な値段で売買されているので、まあ三脚込みならばお買い得だったかな…と自らを納得させています。

あばたもえくぼ。こうして写真で見ると、風雪に耐えた重みもそこはかとなく感じられます。

アドラー・プラネタリウム2006年09月07日 23時15分18秒


1930年創設という、西半球最古の歴史を誇るアドラー・プラネタリウムは、ミシガン湖に突き出た小半島の先に立っています。

* * *

縹渺とした海。孤独な風に吹かれるドーム。
世界の果てにたたずむ、遠い銀河への始発駅。

…想像力をたくましくすると、そんな風にも見えます。

ともあれ、この絶妙のロケーションがアドラーの魅力を生んでいることは確かでしょう。


★写真は1947年の消印のある絵葉書。
★アドラーの絵葉書はこちらにも載せました(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/25/225218

ヘイデン・プラネタリウム2006年09月08日 00時06分55秒


シカゴのアドラー・プラネタリウムに続き、1935年、ニューヨークに誕生したヘイデン・プラネタリウム。

写真は布目模様の紙に印刷された、いわゆる「リネンタイプ」の絵葉書です(1940年ごろ?)。

満月の浮かぶ明るい晩。巨大なドームをいただくモダンな建物からは温かい明かりが洩れ、大勢の着飾った男女が、肩を寄せ合いながら、その建物の中に吸い込まれていきます。

人々のざわめき。これから始まるドラマへの期待。見交わす笑顔。
何ともほのぼのした空気が、画面から漂ってきます。

戦前のモダン都市、ニューヨークの面影。

模様替え2006年09月09日 21時05分35秒

ただいま部屋の模様替えに挑戦中です(まだ途中です)。

これまで何度も模様替えして空間を捻出してきたのですが、今回も乾いた雑巾を絞るように、空間を手に入れるべく苦心惨憺しています。

しかし、正直なところ、もう限界。溢れたモノを整理しない限り、もうどうにもならない状態になっています。どうするべきか…ここが思案のしどころ。

そんなわけで、今日はブログも開店休業、画像もありません。

星座早見盤の思い出2006年09月10日 15時35分07秒


みなさんが初めて星座早見を手にされたのはいつでしょうか?

私の場合は、3分の1世紀前の小学生時代に遡ります。
そのとき使っていたのが、渡辺教具製のお椀型の早見盤でした。

写真に写っているのは、ずっと後年、大人になってから買い直したものですが、子供の頃使っていたものとメーカー名のロゴ以外ほとんど変らぬ姿。非常に息の長い商品で、完成度の高さを物語ります。

最近はデザインを一新し、カラーリングもブルー地のすっきりしたものになりましたが、私にとっては旧バージョンの方が目と手に馴染んでいます。

当時は東京の真ん中に住んでおり、公害問題も非常に深刻な時代でしたが、星は今よりよく見えたような気がします(目が良かったせいもあるでしょう)。

凍てつく冬の晩、毛布にくるまってリクライニングチェアに横たわり、早見盤を片手に空を見上げたあの頃。バッタ品の望遠鏡で一生懸命月のクレーターを観察したのもなつかしい思い出です。この早見盤を見ると、その頃の気分が鮮やかによみがえります。


★渡辺教具製作所HP http://blue-terra.jp/
★星座早見盤(現行バージョン) http://blue-terra.jp/products/1101.html