『博物学標本の収集と保管に関するノート』 ― 2006年09月16日 16時37分05秒
■Notes on Collecting and Preserving Natural History Objects.
J. E. Taylor (ed.), Hardwicke & Bogue, London (1876)
博物趣味が全盛だったビクトリア時代に出版された、収集心得帳。
各章はそれぞれ、地質学標本、骨、鳥類の卵、蝶と蛾、甲虫、膜翅類、陸生および淡水産の貝、顕花植物とシダ、禾本類、コケ、キノコ、地衣類、海藻にあてられています。当時、興味を持たれた対象が一目瞭然。
前書きを読むと、
「博物学の大いなる目標は、対象への愛を育み、相手をよりよく知ることである。…だが、まことに残念なことに、近時の青年は皆単なるコレクターに堕している。部屋いっぱいの蝶や蛾、甲虫を所有したからとて、それだけで優れた昆虫学者とは言えまい。抽斗にぎっしり化石や鉱石を詰め込んだだけで、我こそは卓越した地質学者なり、と僭称するのも同様に間違っている。しかし、若き博物学徒が陥りやすい失敗は、まさにここである。」
と、警鐘を鳴らしています。
「高邁な研究者」と「単なるコレクター」の対立は、もっと古くからあったでしょうし、これから後も続くでしょうが、強迫的な蒐集癖を見せたビクトリア人士の間でも、一応は「単なるコレクターに堕すなかれ」という主張が、一種の political correctness (建前上の正義)として流通していたことは確認できます。
もっとも、本の内容のほうは「単なるコレクター」により相応しいハウツー本となっているのは、当然予想されるとおりです。
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