月の早見盤2006年09月11日 23時25分56秒

懐かしの天文教具。渡辺教具の昔の製品です(現在は廃番)。

今でも、特定の日時の月の満ち欠け(位相)が分かる早見盤は売られてますが、これはさらに天球上での月の位置(どの星座の近くにあるか)もぴたりと分かるという意欲作。

そのため盤の構造も、星座盤、白道盤、離角盤、位相盤の4枚重ねに、さらに月の位置・位相を示す指針の5パーツからなる、複雑な構造をしています。

付属の解説書を見ると、「この原稿を書いています…今夜は1958年11月14日の19時ですから」云々という記述があり、発売されたのは同年(昭和33年)末頃と推測されます。

ベースとなる星座盤は金属製。表面にプリントされている文字や星座図は、全て手書きの原稿を転写したもので、その微妙な線の粗密が温かさと懐かしさを醸し出しています。

さて、気になる使用法はまた明日。。。

月の早見盤(その2)2006年09月12日 17時27分58秒

(表がびっしり載った早見盤の裏面〔部分〕。解説書よりスキャンしたもの。)


さて、これを使ってどのように月の位相・位置を求めるのか?

* * * * * * * 

早見盤の裏面には、表1から表9まで、9個の表が印刷されています。

■ステップ1
表1~4を使って、調べたい西暦年月の「千百年(上2桁)」、「十年(3桁目)」、「年(4桁目)」、「月」の数字に対応するN1~N4の数字を見つけ、それらを合計し、合計が360より大きい場合は360を引きます。その答が「昇交点黄経N」の値です。

■■ステップ2
同じように、表1~4のP1~P4の数字を合計すると「近地点黄経P」の値が出ます。

■■■ステップ3
今度は表5~9を用いて、調べたい西暦年月日時に対応するM1~M5の数字を合計すると「離角M」の値が出ます。

■■■■ステップ4
白道盤をNの位置に、離角盤をPの位置に、位相盤を月日の位置に、指針をMの位置に回してください。

さあ!これで希望の年月日における、月の離角・黄経・黄緯の値や、星図中でどの星座付近にあるか、満ち欠けの具合はどうか、すべて分かります。

* * * * * * * 

…という具合なのですが、ウムム、なかなか手ごわいですね。正直、よく分かりません。たぶん、この操作の難しさが普及の妨げとなったのでしょう。

しかし、当時これを手にした少年少女は、月の位置・位相を知るのは、星座の見え方を知るよりも、はるかに複雑な作業であることを直覚したでしょうし、それだけにこの早見盤を使いこなせたときには、学問の蘊奥に触れ、誇らしい気分を味わったことと思います。

天文趣味の歴史をさぐる2006年09月13日 06時16分15秒

天文学史というオーソドックスな学問とは別に、私がずっと関心を抱き続けているのは、「天文趣味史」と呼びうるような領域です。

すなわち、人々はいかにして天界の神秘に惹きつけられ、天上の美を味わい、大宇宙と人間の関係に思いを馳せてきたのか。趣味としての天体観測はどのように発展してきたのか。天文学と文学や芸術は相互にどう影響しあってきたのか。…そんな内容です。

このブログも言ってみれば、モノを通して過去の天文趣味の在り様を探る、というのが大きな動機付けとなっているわけです。

「天文趣味史」を素描する取っ掛かりとして、以前、日本ハーシェル協会のニューズレターに投稿した記事を、協会のHPにも再録したので、関心のある方はぜひご覧下さい。


★企画展《夕べの楽しみ:1750年~1930年のポピュラー・アストロノミー》に見る天文趣味の夜明け

http://www.ne.jp/asahi/mononoke/ttnd/herschel/a-text/evening_amusement-j.html

惑星早見盤(その1)2006年09月14日 06時01分08秒

今日も渡辺教具さんの製品です。

「惑星早見盤」という、前出の「月の早見盤」の姉妹品とおぼしき品。特定の日時における、各惑星の天球上での位置、さらに地球からの距離・離角を知ることができるというアイデア商品です。

2枚セットで、1枚は水星・金星・火星用、もう1枚は木星・土星用。本体はボール紙製で、モノとしての存在感では「月の早見盤」がまさっていますが、複雑な形の透明スケールにはメカニカルな面白さがあります。

解説書には、「1964年11月3日の金星の位置は…」とか「1965年7月の木星までの距離は…」といった例題がのっているので、発売もその前後でしょう。月の早見盤より少し後発の商品です。

(この項つづく)

惑星早見盤(その2)2006年09月15日 06時00分13秒

写真は説明書の表紙。チャーミングな図柄ですね。

さて、この盤の使用法ですが、「月の早見盤」に較べれば、かなり簡単。裏面の数表を使って求めるのは、特定の年月における惑星の離角だけです。あとはスケールを月日と離角の位置に合せれば、惑星が今どの星座にあるのか、地球からの距離はどれだけか、簡単に読み取れるようになっています。

ときに、「月の早見盤」と「惑星早見盤」について、同社の渡辺美和子社長に先日お話を伺いましたが、同社でも既に詳細は不明の由。ただ、後者はその後リニューアルして、1995年頃まで僅かに在庫があったそうです。

「組み立ても大変で、製造の人から『やめたい』と言われました。地学の平瀬先生にご相談したところ、『理科年表でもわかるし、もう時代がちがっているからやめてもいいでしょう』とアドバイスを受け、やめました。」(私信)

天文教具にも栄枯盛衰。それを思うにつけても、星座早見盤の息の長さを改めて感じます。

なお、これらの品は、同社の初代・渡辺雲晴社長の発明品かと最初思ったのですが、「初代雲晴はこの手のものの発明はしていないのです。天文の関係者でどなかたですが…」、結局発明者は不詳とのことでした。


■追記■

アクセス・カウンタがどうにも復旧しないので、思い切って削除しました。
これで表示がずいぶん軽くなったと思います。
ご迷惑をおかけしました。

■追記その2■

別サイトのアクセス・カウンタに取り替えました。
しばらく、これで様子を見ようと思います。

『博物学標本の収集と保管に関するノート』2006年09月16日 16時37分05秒


■Notes on Collecting and Preserving Natural History Objects.
 J. E. Taylor (ed.), Hardwicke & Bogue, London (1876)

博物趣味が全盛だったビクトリア時代に出版された、収集心得帳。

各章はそれぞれ、地質学標本、骨、鳥類の卵、蝶と蛾、甲虫、膜翅類、陸生および淡水産の貝、顕花植物とシダ、禾本類、コケ、キノコ、地衣類、海藻にあてられています。当時、興味を持たれた対象が一目瞭然。

前書きを読むと、

「博物学の大いなる目標は、対象への愛を育み、相手をよりよく知ることである。…だが、まことに残念なことに、近時の青年は皆単なるコレクターに堕している。部屋いっぱいの蝶や蛾、甲虫を所有したからとて、それだけで優れた昆虫学者とは言えまい。抽斗にぎっしり化石や鉱石を詰め込んだだけで、我こそは卓越した地質学者なり、と僭称するのも同様に間違っている。しかし、若き博物学徒が陥りやすい失敗は、まさにここである。」

と、警鐘を鳴らしています。

「高邁な研究者」と「単なるコレクター」の対立は、もっと古くからあったでしょうし、これから後も続くでしょうが、強迫的な蒐集癖を見せたビクトリア人士の間でも、一応は「単なるコレクターに堕すなかれ」という主張が、一種の political correctness (建前上の正義)として流通していたことは確認できます。

もっとも、本の内容のほうは「単なるコレクター」により相応しいハウツー本となっているのは、当然予想されるとおりです。

化石の抽斗2006年09月17日 10時30分35秒

私の部屋の本棚の下は抽斗になっていて、そこに雑然と化石が入っています。
抽斗を開けると、何となく理科室っぽい雰囲気が漂うので、部屋の中でもお気に入りのスポットの1つ。珍しい品はなく、すべて示準化石的なものばかりですが、そこがまた理科室風なのです。

博物趣味という点からいうと、私の場合は「単なるコレクター」ですらなく、それ以下の存在、ずばり「ミーハー」です。

たとえば「化石が好き」と言っても、私の場合は、実は「化石」が好きなのではなく、「化石の詰まった棚」が好きなのです。その醸し出す雰囲気―稲垣足穂云うところの「人をして世俗を離脱したすがすがしい学的操作に赴かしめるところの、博物標本の雰囲気(『水晶物語』)」に強烈に惹きつけられるのです。

理科よりも理科室が好き、というのもそれに近い感覚ですね。フェティッシュな倒錯の喜び…とまで自虐する必要はないかもしれませんが、何となく後ろめたい思いがするのも事実です。

博物趣味の歴史2006年09月18日 07時24分19秒


(昨日の続き)

* * * *

化石一つとりあげても、私のような嗜好の者は、化石マニアともあまり接点がなく、どうにも根無し草的な感覚を抱かざるを得ません。

そんなわけで、自分の今いる位置を再確認するために、先日触れた「天文趣味の歴史」と同様、「博物趣味の歴史」にも、大いに興味を持っています。

幸い後者については関連書籍も豊富なので、折にふれ頁をめくっては、頭を整理し、かつ心を慰めています(例えば、アレン『ナチュラリストの誕生』、バーバー『博物学の黄金時代』、メリル『博物学のロマンス』など)。

このブログで、まだ見ぬ同好の士に語りかけるのも、そうした孤絶感をやわらげるための試みに他ならない…と、今気づきました。

アドラー・プラネタリウムのペーパーウェイト2006年09月19日 05時59分35秒


アドラー・プラネタリウムの昔のお土産品です。
直径8センチ、ちょこんとドームをかぶった姿が可愛らしい。

 ★       ★       ★

「1933年のシカゴ博覧会に合せて、シェッド水族館や、他の建物といっしょに売りに出された、ミニレプリカシリーズの1つ。

アドラー・プラネタリウムのモデルは今でもよく目にしますが、今回紹介するシルバーウォッシュ・タイプの品は稀(※)。

細部まで非常に精巧な作で、表面にわずかなくすみ―いや、古色というべきでしょう―がある以外、目だった傷やへこみはありません。ただし底に貼られたフェルトは欠失しています。

1930年代製金属モデルの逸品。」

(※管理人註…ブロンズ仕上げはオークションにもよく出てきます。)

 ★       ★       ★

…というのが、eBay業者の口上。

売り手は、お土産用建物モデル(souvenir building)専門という、たこつぼ的な業者なので、その知識は一応信頼できるものでしょう。確かに、窓の桟のような毛筋ほどの細部もきれいに出ており、初期に鋳造されたモデルという気はします。

小さな身体に古希の風格を漂わせた、机辺に置いて楽しい品。

なつかしい地球儀…木造校舎のロマンス2006年09月20日 06時01分49秒


全くの偶然なのですが、渡辺教具さんの製品にこのごろ妙に縁があります。

写真も最近手に入れた品。高さ60センチはあろうかという、堂々たる大型の地球儀です。

渡辺教具のウェブサイトによれば、同社の創業は昭和12年。その後、昭和21年に本格的な地球儀の製作を開始した、とあります。(http://blue-terra.jp/profile/profile.html

写真の地球儀は昭和24年の発行なので、同社のごく初期の品。
地理表記を見ると、「列強」の依然広大な植民地に加え、中国がまだ「中華民国」となっている点が目を引きます。

日本を代表する地球儀メーカーの草創期の品―というだけでも十分貴重ですが、個人的に気に入っているのは、これが広島県尾道の某校旧蔵品だということです。

尾道と聞くとすぐ叙情的な連想が働く世代なので(尾道三部作!)、古風な脚部のデザインとも相まって、この地球儀の背後に非常にロマンチックな物語を思い浮かべたりします。