チャールズ・ヤング『天文学講義』…ポスト分光学時代の教科書2007年01月29日 23時37分18秒


■書誌データ
 Young, Charles A.
 LESSONS IN ASTRONOMY, INCLUDING URANOGRAPHY
 1891, Ginn & Co., Boston,
 357pp (本文293pp + Appendix+Index), 星図4枚付き

昨日チラッと出た、チャールズ・ヤング(1834-1908)の編んだ教科書。ごらんの通り地味な体裁の本なので、こんな折でもなければ紹介する機会はないと思い、取り上げました。

教科書といえば、以前イライジャ・バリットが1830年代に書いた教科書を取り上げました。それから半世紀あまり後に出た本です。一口に19世紀の教科書と言っても、両者の間には根本的といっていいほどの違いがあります。

さんざん言い古されたことですが、19世紀の半ばに誕生した分光学と写真術によって、天文学は大きな変化を経験しました。はるかかなたの恒星や星雲の正体について思いを巡らすことは、それまで純粋な思弁でしかなく、健全な精神の持ち主であれば避けるのが賢明な話題、いわば「ヤクザ」な話題であったのですが、それが確かな実証科学になったというのは、まさに革命的変化、人知の偉大な勝利であり、当時の熱狂と興奮は筆舌に尽くしがたいものがあります。

分光学の勃興期、ヤングはちょうど少壮学徒として世に出たばかりの頃。多感な時期に、彼は灼熱した坩堝のような学問の変革の場に居合わせ、自らも分光学の大家への道を歩んだわけで、まことに幸福な人生だったと思います。

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見かけは「地味」でも、このヤングの教科書にも、その熱気は感じられるはず…という予断を持って手に取りましたが、ものが教科書だけに、そう熱く語っている部分もなく、分光学についても意外なほどあっさり書かれていました。教科書というのは、そんなものですかね。(この項、やや竜頭蛇尾…)