大正時代の理科少年…『近世科学の宝船』(2)2007年08月20日 20時22分27秒

(扉と口絵-飛行機上から燐火弾攻撃-)

さて、昨日の本の中身です。
著者前書には、対象読者と著者の狙いが以下のように書かれています。

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小学五六年乃至中学二三年に学ばれる生気に満ちた子供さん達よ。
〔…〕此の本は、分に秒に進む近世科学の大観を皆さんに紹介しよ
うとする私の随筆であります。僅々二十有八項、もとより近世科学
の宝の一部を載せた一隻の船に過ぎない。併しながら皆さんは此の
一隻の宝船がもたらした科学の知識に興を覚えられて、更に第二、
第三の宝船の入港を待たるゝやうになったならば、これぞやがて我が
国運進展の第一歩であると思ひます。〔…〕

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「国運進展」というのが、いわば本書のキーワードで、文中「科学立国のススメ」に類する主張が繰り返し出てきます。ただ、そこはさすが大正時代といいますか、ファナティックな色彩は薄く、素朴かつのどかな空気を感じます。

自身「随筆」と書いているように、内容はかなり雑多です。「化学応用の手品」(コップの水の色を種々変えたり、水の中で炎を燃やしたり…)があるかと思えば、「勇ましき空中戦争」や「水中の魔王、潜水艦」といった軍事技術の発展に目を見張る章もあり、あるいは、この世の秘密を解き明かす「エッキス線」や分光器のまじめな解説の一方に、「原子村の大評定」という戯文(原子村に住む、水銀家、ラジウム家、金家etcの人々が長岡半太郎博士の発見をめぐって議論白熱)がある、といったあんばいです。

そんな中、私が注目したのは「茶目物理君」と「村山正信君」という、二人の理科少年が登場する章節で、その人物造形に、大正期の理科少年のひとつの類型を見ることができるのではないか…と考えています。

(この項さらに続く)