台座に乗った石たち2007年12月19日 21時53分22秒


木の飾り台に接着された鉱石標本。アメシスト、黄鉄鉱、マラカイト、水晶、碧玉…。これはある意味貴重な標本だと思います。

何が貴重かというと、今でこそ全く問題にならない、こうした雑石の類が、洒落たアイテムとして、麗々しく東急ハンズで売られていた時代があったことを今に伝えているからです。(今ならストーンショップの店頭で、籠盛りにして売られてますね。)

平成の初めというと、私の感覚からすると、そう遠い昔のことではありませんが、今あらためて振り返ると、時代の変遷をしみじみ感じます。当時の鉱石趣味は、一部のマニアだけの世界で(そうしたマニア自体は戦前から存在しました)、今のように街中で普通に原石を売っているという状況ではありませんでした。もちろんネットもありませんでした。

堀要氏の『楽しい鉱物学』が出たのが1990年、長野まゆみ氏の『鉱石倶楽部』の初版(単行本)が出たのが1994年。ちょうどその頃の品ですね。その堀氏の本の前書きを読むと、その頃の鉱石趣味事情がよく分かります。

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〔…〕平均的な日本人の意識のなかに鉱物は入っていない。〔…〕欧米で王侯貴族の手から一般市民の手に渡った鉱物の趣味は今ますます盛んになっている。日本でも、その兆しはないとは言えない。海外渡航者がふえて、向こうで鉱物に接したという話を最近よく耳にする。日本人の生活にもいくらかはゆとりが出てきて、趣味を持つ余地が出てきていることも反映しているだろう。〔…〕このような鉱物の美しさは、多くの日本人にとって知られざる世界になっている。それは残念なことではないだろうか。最近、鉱物趣味の同好会を組織したが、大多数の会員は鉱物を知って間もない人たちで、「良い参考書を紹介してください」といつも頼まれる。しかし、日本には良くも悪くも本がない。だれかが書いてくれるだろうと思ってからずいぶんになるが、結局人を当てにしていてはダメなことを悟った。

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今読むと、相当時代がかった文章です。
鉱石趣味がこれだけ普及すると、はるか昔からこうした状況だったような錯覚を覚えますが、20年で世間の有様がすっかり変わることもあるのだなあ…という実例として、今も本棚の一角に並べてあります。