ジョバンニが見た世界…天文掛図の話(その3)2008年05月21日 21時43分55秒

(↑サムネイルを拝借。京大が太っ腹だといいんですが)

さて、油断ならぬ、もとい有り難いコメントを頂戴しましたので(笑)、ここで途中をはしょって現実に存在した星座掛図の候補をちょっと見てみます。

■「京都大学所蔵 近代教育掛図」 より
 http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/kakezu/page/0650.html

「日本天文学会蔵版 新撰恒星図 東京 三省堂発兌」
【刊年】 明治43年(1910)
【印記】 第三高等学校図書印
【外寸】 75.5×101.2cm

1908年に日本天文学会が創設され(今年で満100歳)、その直後に同学会が出した星図です。近代の本格的な星図としては、日本で初めて出たもの。

この星図には並製と特製があったといわれ*、特製というのは、たぶんここに挙げたもののように、裏打ちがされたものでしょう。これはいわゆる掛図メーカーが掛図として売り出したものではありませんが、特製品については、掛図として使用することを最初から想定していたと思います。

同じ星図が、金沢大学にも所蔵されていて、こちらは旧制四高伝来の品。
 http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/kakez4ko/page/0641.html

要するに、旧制高校あたりでしばしば用いられたもののようです。
そしてこの星図は、賢治が学んだ盛岡高等農林(現・岩手大学農学部)にも所蔵されており**、賢治自身も間違いなく目にしていたはず。

というわけで、結論からいえば、これこそ物語に登場する星座掛図のモデルの最有力候補なのです。そして、昨日の小学校で使われた掛図に較べれば、確かに「大きな」図であるわけです。

ただし落ち着いて考えれば、これは旧制高校レベルで使われたものですし、「黒」くもありません。まあ、フィクションの世界に登場する物と同じ物が、現実になくても一向に構わないわけですが、しかし、何かもっとぴたりと来るものがあるのでは…

というわけで、この話題はまだまだ続きます。

* 日本天文学会編『星図星表めぐり』、p.9、
** 西田良子編著『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」を読む』、p.231