ケプラーの銀星2008年07月06日 08時55分26秒

黒部に挑む―。
唐突にそんな古いフレーズが口をついて出るほど、今抱えている仕事はなかなかの難工事です。トップページを7月10日に設定してありますが、それまでに終わるかどうか…。

そんなわけでブログは完全に沈黙していますが、皆様お変わりありませんでしょうか。
暑中お見舞い申し上げます。

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さて、明日は七夕なので、キラキラ光る「お星さま」を載せます。
中央に光るのが、ケプラーが発見した多面体、通称「ケプラースター」。

「光の万華鏡 ペンタキス」という名で商品化されたもの。
外形はアルミでできた三角錐状をしており、底の方から覗くと、上のような驚異的な映像が見えます。

◆販売元エクスプランテのページ
 http://www007.upp.so-net.ne.jp/xpl/pentakis1.htm

どういう経緯でできた会社なのかは知りませんが(いろんな人が係わっていそう)、商品ラインナップを見ると、何とも酔狂な会社ですね。

ペンタキスは、もともとスイス出身の造形作家、カスパー・シュワーベという人が考案したもので、チューリッヒには、このシュワーベさんらが始めたAHA(アハー)という、これまた奇妙なショップがあるんだとか。おもちゃとアートの境界領域にあるような、不思議な作品の数々が並び、その一部はオンラインショップでも購入可能のようです(AHAには上のページからリンクが張られています)。

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ケプラーは宇宙の数的調和を唱え、多面体宇宙モデルを考案しましたが、幾何学的造形というのは、何か人を瞑想的にさせるものがありますね。「幾何好み」は、曼荼羅とか、五輪塔とか、仏教的な宇宙観とも親和性が高いような気がします。

遠い座敷2008年07月10日 20時24分04秒

さて、自分なりに腹積もりしていた7月10日が来ましたが、例の仕事は全然終わりません。

いや、全然終わらないわけではなく、遠くにかすかなゴールの気配が感じられてきたところです。たぶん今度の土日が山でしょう。

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表題は筒井康隆の同名の小説より。

超現実的な長大な日本家屋を駆け続ける少年。どこまでも続く座敷、座敷、座敷。無数の床の間に漂う怪しの気配。泣きながら駆けて、駆けて、やっと遠くに温かい我が家の気配が感じられたときの安堵感。

ちょうどそんな精神の陰影を感じながら作業しています。

お知らせ2008年07月10日 21時10分59秒

(★この告知はしばらくトップに表示しておきます。)


蒸しますね。今年初めてエアコンをつけました。

ところで、ハーシェル協会のニューズレターの発行やら何やらで、少々慌しくなってきました。(これまで放置してあったのが、この間のサイト更新で、やっと少し弾みがつきました。)

一段落するまでちょっと記事が間遠になります。

ゴール2008年07月14日 22時23分45秒

終わった。。。

ぼんやり2008年07月15日 21時16分47秒

とこ様、U様、慰労のお言葉ありがとうございました。

ちょっと頭がぼんやりします。
記事はもう1日休んで、明日から再開します。

今日はゆっくり寝ます。

星の文具屋さん2008年07月16日 21時07分51秒


ようやくのんびりした生活が戻ってきました。炎暑はきついですが、気分はのどか。

そんなわけで、町までぶらぶら出かけました。
私の住むまちでも、某書店で遊星商会さんの商品が売られているという噂を耳にしたので、それが目当てでした(http://biog.planet-and-co.net/?day=20080701)。
同商会は、先日記事にした「理科教室の午后」展にも出品されている、創作系理科趣味の作家さんです。

写真は天文をモチーフにしたステーショナリー。
星座のレターセット、星の手帳、それにプラネタリウムのスタンプ。ちなみに左上の4個は、同業他社(?)の我楽多倶楽部製のスタンプセットで、これも最近買いました(http://www.junk-club.com/kirara/index.html)。

こういう品は、さしあたり使う当てがなくても、そばにあるだけで何となくうれしいものですね。

ところで、新刊書店に行くのは本当に久しぶりなので、右も左も分からずまごまごしている自分がいました。出版界の激変が言われて久しいですが、私が今関係しているジョン・ハーシェルの伝記などは、まことに地味な、古き良き教養主義そのものといった内容なので、この店の棚に並ぶことは絶対にないでしょう。出版社の良心にひたすら感謝です。

掌中の太陽系史…アエンデ隕石2008年07月17日 22時25分50秒

ヴンダーカンマー趣味というのは、単なる珍し物ずきにとどまらず、世界の全てを我が物としたい、あるいは自分だけの世界を創りたいという欲求と結びついているように思います。

世界の果てにある物、ひたすら古い物を求めるというのも、まずは世界の外縁をぐるりと縁取りたいという願望ではないでしょうか。

  ☆★

で、私の部屋にある古い物といえば、このアエンデ隕石。
これは古いです。ざっと46億歳。地球より古いとも言われます。太陽系の初期に形成され、その後砕け散った原始惑星の名残らしい。1969年、ちょうどアポロと入れ替わりに地球に飛来したのも何かの縁かも。メキシコのアエンデ村に落下した総量は、数トン規模に達し、その分商品としての流通量も膨大で、「貴重だけど安価」な隕石です。

まあ値段はともかく、今掌に46億年が乗っている…と思うと、それだけで頭の芯がジーンと痺れるような感じがします。

私は一応これの所有主なのですが、隕石からすれば、自分の年齢の1億分の1にも満たない、グンニャリした有機物の塊に主人面されて、大いに片腹痛い思いかもしれません。

江戸の想像力(1)2008年07月18日 21時13分06秒

いつも貴重な情報をいただいているS.Uさんから、またまた衝撃の情報。

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松の根方にひっそりと立つ藁屋。
夕暮れ時に仲睦まじく空を見上げる親子。

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いったい、ここに描かれているものとは?
その正体を知って、私はしばらく口をあんぐり開けて、よだれを垂らしながら白目をむいてました(半分本当)。

いや、世界は広い…。

(大いに盛り上げつつ明日に続く)

江戸の想像力(2)2008年07月19日 15時02分15秒

さて、昨日の絵の正体は…

http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ni05/ni05_02338/ni05_02338_p0011.jpg

なんと土星人の親子でした!
タイトルは「土星界に入りて輪環小星を観る図」

ドセイジンノ オヤコガ オウチノ ヨコデ ナカヨク ワッカト イツツノ オツキサマヲ ナガメテヰル トコロデス。トテモ ホホエマシイ デスネ。

ひいいい………!!

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正気に戻って話を続けますが、この本は、片山松斎(円然)著の『地転窮理論』といいます。序文は文政10(1827)年、刊本ではなく写本です。

序文によると、この書は司馬江漢の『和蘭天説』(1795)や『刻白爾天文図解』(1808、「刻白爾コッペル」はコペルニクスのこと)の評判を受けて、それをさらに一般向けに書き改めたもの、とあります。

「予、本より蘭字に疎し。定めて訛謬多かるべし」と凡例にありますが、松斎は原書に当たることなく、利用可能な和訳・漢訳の書だけをたよりに、最新の天文知識を説くという、いささか無理な仕事をしたので、そこに江戸のイマジネーションが闊達に働く余地があったと言えます。

土星から見上げた光景の想像図というのは、たぶん当時の西洋書にオリジナルがあったと思いますが、それが文字を通じて日本の町人学者を刺激し、その脳髄で濾過された結果、このような傑作が生まれたのでしょう。

ただし、本文を見ると、「土星界も我が地界と同じく、山嶽河海有りて大地たること必然たり。されども彼の地界は日輪を離るることいよいよ極遠なるが故に、太陽の火気微力にして常寒の気候にて、人畜草木類は生ずべからずと云へり」とあって、松斎もさすがにこれが実景とは思っていなかったようです(原文の表記を一部改めました。以下同じ)。ちょっと残念。

だが、しかし。江戸の想像力はまだまだ燃え盛ります。以下は月の描写。

「月輪も一箇の小土塊にして、即ち地球なり。山川河海人類禽獣魚鼈歴然たること、あたかも我が大地に異なることなしと知るべし。月輪は我が天に至て近きが故に、望遠鏡を以てこれを見るに月中鮮やかにして、暗黒なるは山岳大地、銀色なる所は河海なり。一凸一凹に至るまで掌中の物を見るが如し。故に西洋には月中の人の尺を測る器あり。」

松斎は、こうして月をはじめ金星や火星には「動植物はもとより人間もいる!」と言い切るのです。

そして、出るべくして出た図。
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ni05/ni05_02338/ni05_02338_p0005.jpg

月の住人が我が地球を見上げて、じっと物思いにふけっています。
彼もなぜか―あるいは「やっぱり」と言うべきか―松の木の下に庵を結んで、風流を決め込んでいるのです。

異星人の存在を平然と語り、それにこうした図像表現を与えた江戸人に、完全に脱帽です。


■本の全体はこちらから(早稲田大学古典籍総合データベースより)
 http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni05/ni05_02338/index.html

(S.Uさま、本当にありがとうございました。)

江戸の想像力(3)…おまけ2008年07月20日 13時29分06秒

(ジョン・ハーシェルが発見した?月に住むコウモリ人間と、ビーバー人間)

昨日の記事中、片山松斎が「西洋には月世界人の身長を測る器械まである」と書いているのを見て、思わずのけぞりました。

私は最初、19世紀前半、アメリカの大衆紙に「ジョン・ハーシェルが月世界人を発見!」というヨタ記事が出て、欧米で一大センセーションを捲き起こした事件を連想しました。

ジョン・ハーシェルが、42,000倍の超高性能望遠鏡で、身長4フィートの月世界人の生活を事細かに観察・報告したという内容ですが、松斎の文章は、それがはるか極東まで伝わった証拠ではないか!と色めき立ったのです。が、件のニュースは1835年なので、松斎の記事とは関係ありませんでした。残念。

それにしても、松斎はいったい何を元に書いたのか、まったくとんでもない話です。
それをしれっと書く彼の胆力も相当なもの。

■参考 THE MOON HOAX
 http://www.lhup.edu/~dsimanek/hoaxes/moonhoax.htm
 (↑の図も同ページより)