たむら氏のアトリエ2008年10月09日 21時31分36秒

『水晶山脈』の冒頭はこんなふうに始まります。

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「はて、こんな物がここにあったっけ?」
 私の仕事場は、いつどのように侵入したのか、世界中から集まった摩訶不思議なオブジェや標本、模型、玩具、機械、書籍や古文書などが、床や階段、戸棚の中などにひしめき、埃と共に堆積圧縮されて、千年もすれば化石になってしまいそうなありさまだ。こんなカオスとも思える状態なので捜し物をする時は一騒動となる。

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「私」が見つけたのは、一塊の水晶クラスター。それを見つめながら「私」は異世界へと導かれます。

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夢想も混じっているとは言え、この魅力的な仕事場には、たむら氏自身の現実のアトリエのイメージが反映されているのではないでしょうか。ちょうど最近出た、福音館の雑誌「母の友」10月号に、氏のアトリエ訪問記が載っていて、それを読むと、どうもそんな気がします。

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 たむらしげるさんのアトリエは、二階建ての一軒家だ(かつては自宅でもあった)。玄関から見えるのは、たくさんの本、そして、たむらさんが大好きな帽子。一階には大きなアップル社製のコンピューターが置いてあった。CG(コンピューターグラフィックス)作品はここで作成する。脇に本が積まれた階段を登ると、絵本作家スズキコージの「作品」が目に入る。二階はひと部屋。両脇に本棚が並ぶ。たむらさんがやはり大好きな水晶も置いてある。〔…〕この部屋の奥のほうに、色鉛筆や水彩で絵を描くときのための机がある。(pp.48-49)

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これだけでも、何となく『水晶山脈』の世界っぽいですが、さらに記事によると、氏の机の引き出しの中には、かつて「Zゲージと呼ばれる一番小型の鉄道模型で作られたミニチュアの町」があって、氏はその鉄道の走る小さな秘密の町を、巨人気分で眺めつつ、代表作『よるのさんぽ』を書き上げたそうです(この町は、その後まだ幼かった娘さんに発見されて、粉砕!されてしまったとか)。

前の引用中の「模型、玩具、機械」のイメージは、この辺の投影かな?と思ったりします。