鉱物王国の地図…クール『鉱物界図説』(2)2008年11月26日 21時38分46秒


この本の書誌については、前の記事(http://mononoke.asablo.jp/blog/2008/11/01/3866693)で詳しい情報を引用しました。

一昨日書いたように、今回届いたのは同書の1874年版です。ただし、74年版については、上記の記事に記載がありません。もちろん、こういうのはよくあることで、いかに行き届いた書誌でも、全ての本の全ての版を漏れなく収録することは至難の業です。

常識で考えれば、この74年版は、1871年と75年に刷りを重ねた第2版のヴァリアントということになります。で、第2版であれば、その挿絵は手彩色ではなく、多色石版画のはず。

さて、ここからが書誌の奥深さ。
今仔細に見たら―しげしげとルーペで拡大してみました―、この74年版は多色石版画ではありません。銅版の下絵と彩色のズレ具合からすると、どうやらステンシル技法で大まかな色を塗り、細部を手で仕上げたもののようです。改めて上の記事に戻ると、手彩色と石版の図版の異同は、図版頁上部に“Tab.(図)”の文字が有るか/無いかで分かるとあります。74年版には確かに“Tab.”とあるので、これはやっぱり手彩色なのでしょう。

手彩色で仕上げた初版本の特徴は、金・銀彩やゴム引きによる艶出しが施されている点で、これが初版本の魅力をいっそう高めている…と、古書肆ユンク(http://www.antiquariaatjunk.com/)のカタログには書かれていました。

74年版にもこの特徴は明瞭です。上の写真で一部の図が光って見えるのがそれ。

「良い版が安く手に入ったぞ!」という自慢以上のものではない、この話題。阿呆らしいといえば阿呆らしいんですが、たまにはこんなことがあっても悪くはないでしょう。何せ誕生日だったんですから。幸薄き者に神が恩寵を示されたのかもしれません。