星の寺院…クロウフォード天文台の場合2009年02月06日 19時28分26秒

(出典:A.チャップマン『ビクトリア時代のアマチュア天文家』、邦訳p.256)

さて、次は海を越えて、アイルランドのクロウフォード天文台。
当時のクイーンズカレッジ、現在のコーク大学(University College Cork)に、1878年に建てられました。

グラブ製の8インチ屈折を主力機材とする、当時の新式天文台ですが、古めかしいゴシック風の外観が目を引きます。以下、上掲書より引用。

「彼〔=建設資金をはずんだ実業家、W.H.クロウフォード〕は同時に、この研究施設に最高級の天文台―子午環室の屋根のスリットを閉じると、中世アイルランド教会とほとんど見分けがつかない石造りの建物に収まった天文台―を寄付するという気まぐれを見せた。実際、それはこれまで建てられた天文台の中でも、建築学的にみて最も特異なものの1つであり、まさに科学・芸術・宗教と歴史とが合体したものだった。」(上掲書、p.26)

「子午観測用よろい戸の一部を構成している尖頭窓、ドームを戴く塔といった、初期ケルト教会との類似性に注目。」(同p.256)

つまり、これは教会建築の影響を受けた…というレベルを超えて、教会堂そのものを直模した、見ようによってはミミックとも取られかねない奇想の建築なのです。天文台と教会建築がこれほどストレートに結びついた例は、他にないかもしれません。

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コーク大学の公式サイト(1)によると、同天文台は長いこと使われぬまま放置されていたのが、2006年に化粧直しをして、リニューアルオープンしたそうです。その修復過程をパワーポイントのスライドショー(2)で見られるようになっていますが、外壁は汚れ、内部は荒れ放題、機材も錆び錆びという化け物屋敷のような姿に、新たな命が吹き込まれる様は、なかなか感動的です。(化け物屋敷めいた天文台も、それはそれで魅力的ですが。望遠鏡の脇で鳥?が巣を作っていたのはびっくり。)

(1) http://www.ucc.ie/faculties/science/pages/news67.php

(2) http://astro.ucc.ie/obs/open_presentation.ppt