石井研堂『理科十二ヶ月』を読む(その2)2009年02月18日 07時10分08秒

このまま春になるのも物足りないと思っていたら、やっぱり寒の戻りがあって、何となく安心しました。

  ★

さて、『理科十二ヶ月』。
この本が12分冊から成ることは、すでに述べました。
各分冊とも本文約80ページで、それぞれが15篇から20篇ぐらいの読み物から成っています。

元々が<理科歳時記>の趣の企画ですから、たとえば『第二月 雪達摩』には、季節にちなんで雪や氷の話が多いのですが、目先を変えるために、それ以外のネタも混ぜ込んであります。いちいち挙げると、

雪花の六出紋、角度の小解、石英の六面鋒、雪仏師、
竹馬国、厳寒土瓶を割る、炭酸気少年を毒す、二十四孝の愚を笑ふ、
一枚千金の毛皮、銀天玉地、大蕗の葉車輪の如し、越後の七非不思議、
製氷田を縦覧す、最寒最冷の物を製す、帆かけ橇の妄想、窮北の小人島、
五年氷下に眠る

の17篇。

内容もそうですが、シチュエーションもいろいろバラエティに富んでいます。
基本は理科好きの小学生たちが寄り集まって、ワーワー議論するというパターンですが、ゲスト(越後出身の下男や作者本人etc.)が登場して、少年と問答体で話を進める回もあり、また「先生からこんな話を聞いた」という筆録形式の回もあり、その他、夢オチあり、純然たる研堂の回想記ありで、読んでいて飽きさせない工夫があります。

文章はやはり明治調というか、落とし噺めいた戯文調も目に付きます。
上の写真は内容サンプルで、上に記した「石英の六面鋒」の一節。雪の話から結晶の話へと話題が移ってきたところです。(それにしても当時の小学生は本当にこんな口調だったんでしょうか。)

文中、春川さんが標本箱から水晶を取り出して見せるのが、目を引きます。この少年たちは博物標本(鉱物や昆虫)の収集をしているらしく、標本箱に言及するシーンが他の分冊にも出てきます。フィクションとは言え、明治の理科少年の博物趣味を伝える資料として面白いと思いました。

コメント

_ とこ ― 2009年02月18日 08時20分41秒

結晶形の違いが、「其物持ち前の形にひとりでにかたまります」という表現が、なんとも愛らしいですねえ。春川さん、ステキなひとだ!

これは、この本は欲しいかも…でも手軽に手に入れられるお値段ではないですね。稟議を通さねば…。

_ 玉青 ― 2009年02月19日 06時27分50秒

何か言い回しの一つ一つに、有無を言わせぬ説得力があるんですよね。こういう切れ味のいい表現を、私も学びたいです。

それにしても、100年後に斯様なお褒めの言葉を頂戴するとは、春川さん、よもや思わなかったでしょう。果報者だ!

とこさんにとっては、とても意味深い本(?)とはいえ、この本の面白さはやっぱり特殊なので、まあ実物を見てから考えても、遅くはないかもしれませんね。

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