二廃人、天文趣味ヲ談ズ2009年02月24日 22時14分04秒


「やあ、このあいだは、だいぶ泣きが入ってたね。」
「うん、最近ちょっとオークションで収穫があったり、面白い本を見つけたりしたもんだから。」
「どういうことだい、ちょっと分からないな。」
「そういう調子がいいときに限って、魔がさすこともあるのさ。…と言っても分からないか。つまりね、そうやって調子付いている自分を、ふと客観視してしまうと、何かいたたまれない気分になったりしてね。」

「何だ、へそ曲がりな奴だな。」
「はは…でも、天文古玩趣味なんて洒落てみても、その実態はどうもアヤフヤに思えるのも確かだし。一度はそんな思いを口にしてみてもいいかなと思って。」
「それは、俺も前から気にしていたよ。児戯に等しいとさえ思ったこともある。」
「児戯とは酷い。それは子どもを馬鹿にした言い方だね。僕は児戯でも一向に構わんと思ってる口さ。そんなことより、今回は現実の天文趣味と、天文古玩趣味の位相の違いをつくづく考えたよ。」
「ほう。」
「つまりね、天文古玩趣味とは一種のコラージュ作品なのさ。美しい断片を掬い取り―いや別に美しくなくてもいいか、ともあれ過去の記憶を拾い上げて、それを美しく配列する。要はコーネルの箱さ。彼が作品に仕立てた、1つ1つのピースが元の文脈を離れて配置されているからといって意味がない…とは、君も思わないだろう?」
「結果が美しければいいってわけか。」
「まあ、僕の手際が美しいかどうかは、別の問題だけれどね。」

「ふん、分かるような気もするな。でも、君は前から歴史主義を標榜してなかったか?現実の天文趣味史を明らかにするという望みはどうなったんだ?」
「別にどうもしないさ。それはそれだ。現実の天文趣味と、天文古玩趣味は違うって、さっき言ったばかりじゃないか。僕は現実の天文趣味を捨てたわけじゃないよ。過去の天文趣味にも同じように興味はある。先人の営みはそれ自体興味深いからね。それに、実際美しいモノも多々あるんだし。ただ、現実とフィクションの混同は避けたいな。それが精神にいい影響を及ぼすとは思えない。」

「ああ、同感だ。ただ、君の用語法は分かりにくいよ。いかにも混同してくださいと言わんばかりだ。」
「かもしれない。話を整理すると、過去の天文趣味にヒントを得て、そこから美しいイメージを紡ぐ行為がまずある。これが<天文古玩趣味>だ。そう呼びたければ、<天文パンク>でも、<時代物天文歌舞伎>でも、好きなように呼べばいい。これは要するに狂言綺語の世界さ。まあ、閻魔様には不興を買うだろうね。で、それとは別に、過去の天文趣味のリアルな歴史を探る行為がある。これが<天文趣味史研究>だ。こちらは純然たるファクトの世界だね。」

「<物語>と<歴史>か。まあ、どっちも横文字ならHistoryだ。君が思うほど、違いがあるわけでもないかもしれんな。…と言って、また悩まれても困るが。」
「ご忠告ありがとう。虚実の間にある皮膜が破れないよう、せいぜい気をつけるよ。」