甲虫女王、東京ヲ制ス。2009年07月06日 23時35分58秒


今、かなりショックを受けています。

以前も取り上げた、奇想系ブログ Curious Expeditions (http://curiousexpeditions.org/)。
それをさっき久しぶりに見たら、ちょっと下の方、6月14日の記事に、至極妙なフィルム作品の紹介があって、頭が混乱しています。

それがJessica Oreck (米)のプロデュースによる 「Beetle Queen Conquers Tokyo」。
同記事はフィルムの公式サイト(http://beetlequeen.com/)にリンクを張っています。
それをパッと見で紹介すると、日本人の昆虫愛好癖を切り口に、禅やら何やら日本文化をメッタ切りにして、返す刀で西洋の自然観に再考を迫るというもの。

「日本人を見習い、西洋人よ、すべからく自然との調和を図れ!」とぶち上げているのですが、これって本気なんでしょうか?

こうした主張自体、かなり遠い過去に属するステロタイプな論(そしてアメリカ人よりも、当の日本人が自ら好んで主張した論)と思えるのですが、そうなるとこれは比較文化論に名を借りた一種のパロディ作品なのでしょうか…?うーむ、分からない。ここは、もっと事情の分かる方に是非解説をお願いしたいところです。

予告編(http://www.vimeo.com/5020588)を見ると、希代の昆虫マニア・養老孟司氏へのインタビューがまずあって、現代のトーキョーの映像とかぶせて、いい年をしたクワガタマニアやら、夏休みの標本製作教室に集まる少年少女なんかが登場して、さらにムシキングが出てきます。

抱腹絶倒物のような気もするし、何だか日本人を「イエロー・フェイス」として、ことさら戯画化して描いた戦前のハリウッド映画のような、ちょっと厭な感じも受けます。

「日本人を見よ!我々が本能的とも思えるほど虫を恐れるのは、単に西洋文化における条件付けが生み出したトリックに過ぎない!」って、そんなにムキになって言うほど、現代のアメリカ人は虫が恐いんでしょうか。ちょっと意外ですね。

はっきり言って、一般の日本人はそんなに虫が好きではないと思います。
(「虫愛づる姫君」なども、近代的再評価はさておき、同時代の人にとっては単なる変態的な奇人に過ぎません。)
江戸時代にも昆虫を採集した人はいますが、それは蘭学や本草学を学んだごく一部の人であり、近代の昆虫採集趣味となれば、これははっきりと西洋の博物学の影響下で生まれたものでしょう。江戸時代の都市で流行した鳴く虫の飼育と、そうした昆虫採集趣味とは、明らかに不連続なものだと思うのですが、どうでしょうか。

曽祖父や曽々祖父の頃は、網を持って虫を追いかける西洋人を嗤って見ていたはずですが、何だかすっかり攻守所を換えた感があります。

虫を見れば、日本人のすべてが分かる―。
かつて西洋文明を全て「牧畜文化」から説明した人がいましたが、ちょっとそれに似たオッチョコチョイぶりを感じます。