ハーシェル天体ウォッチング2009年07月31日 22時17分19秒

今週は食べるための仕事がなかなか忙しく、記事が間遠になりました。
今日もそんなわけで、山本一清博士のことは先に延ばし、軽くつぶやきの記事です。
というか、宣伝です。

   ★

天網恢恢疎にして漏らさず。
かすてんさんに早々とコメントをいただきましたが、つい先日、ハーシェル絡みの本が出ました。

■ジェームズ・マラニー 著、『ハーシェル天体ウォッチング』
 地人書館、2009年
 (http://www.chijinshokan.co.jp/Books/ISBN978-4-8052-0813-7.htm

実観測の体験もほとんどないのに、こういうディープな本を訳すというのは、厚顔無恥も甚だしいのですが、これもハーシェルの名前を少しでもポピュラーにしようという、涙ぐましい努力のなせるわざです。

ハーシェル天体というのは、あまり聞き慣れない言葉ですが、シャルル・メシエ(1730‐1817)が目録化した星雲・星団の総称である「メシエ天体」のように、ウィリアム・ハーシェル(1739-1822)が目録化した「ハーシェル天体」という、一連の星雲・星団の類があるのです。

メシエ天体は、M78のように、頭に「M」を付けて呼ばれますが、同様にハーシェル天体の方は頭に「H」が付きます。メシエ天体は全部で110個ですが、ハーシェル天体はざっと2500個余り。要するに、ハーシェル天体は、メシエ天体よりもずっと暗い天体まで含んでいるわけで(ただし、両者はごく一部の例外を除き、天体の重複はありません)、メシエ天体を一通り愛機で眺めた天文マニアに、新たな星見の目標を提示しようというのが、本書の書かれた第一の目的です。

そしてもう一つの目的というのが、このデジタル優勢の時代に、徹底的に眼視にこだわってみようという、実に渋いものなのです。以下、「訳者あとがき」より。

  ☆ ★ ☆

天文ファンの中には、かつて初めて深宇宙天体に望遠鏡を向けたとき、期待したような「渦巻く大銀河」は影も形もなくて、がっかりした経験をお持ちの方も少なくないと思う。しかし、天体の姿を、たとえかすかな光のしみとしてであれ、自分の目で見ることの意義をマラニー氏は力説してやまない。

近年のアマチュア天文界は、自動導入、デジタル撮像、そして高度な画像処理等、デジタル化の進展が著しい。確かにそうした技術によって、「渦巻く大銀河」が手軽に楽しめるようになったのは、深宇宙ファンにとって大きな福音であることは間違いない。そうしたデジタル技術のメリットも熟知した上で、著者があえて眼視にこだわったのは、1つにはウィリアム・ハーシェルという、現代天文学の偉大な父を追体験する喜びを、そしてまた光子〔フォトン〕を介して何千万光年も離れた遠くの天体と、(比喩的な意味ではなく)じかに触れ合うことの素晴らしさを人々に伝えたいという、「天界の使徒」としての熱い思いからである。全身で宇宙と向き合う喜びを思い起こして、多くの天文ファンに、ぜひ今一度眼視に挑戦していただければと思う。何しろ、見ようと思えば「かすかな光のしみ」以上のものを見ることができる大型機材も、今や十分身近な存在なのだから。

  ☆ ★ ☆

…とまあ、何か偉そうに書いていますが、そんなこんなで本の帯には「眼視派に贈る、新たな夜空のロードマップ」という文字が躍っています。


これぞディープなディープスカイの本。
ご購読いただければ幸いです。

コメント

_ かすてん ― 2009年08月01日 10時24分22秒

眼視派がきゃっほ〜!と叫ぶ本を出されたのですね。
実は私の明日朝の記事で大野裕明氏の『いろいろな望遠鏡による見え方がわかる 星雲・星団観察ガイドブック』(『見ておもしろい星雲星団案内』の新版)を紹介する予定です。こちらも再版の待望久しかった有名な眼視スケッチの本ですが、同時期に眼視派へ向けたハーシェル天体の本が出るとは、機が熟して来たのでしょうか。さっそく購入します。

_ S.U ― 2009年08月01日 14時53分27秒

玉青様、ご出版おめでとうございます。
私は、藤井旭さんの『全天星雲星団ガイドブック』を買って以来(この本は今でも重宝しています)このような本から遠ざかっているので、ぜひ読ませていただきます。
 今後、星雲星団の眼視が見直されるならうれしい限りです。本当の宇宙の凄さというのは、派手な写真ではなく、あの「かすかな光のしみ」の中に幾万幾億の太陽が詰まっているということによって、初めて感じ取れるものかもしれません。望遠鏡を向けたとき期待したように見えなくても、もう「がっかり」とは言わせない! という気概に拍手。

_ 玉青 ― 2009年08月01日 20時05分24秒

かすてんさま & S.Uさま、
お買い上げ、ありがとうございます<(_ _)>

昔むかし、写真術が登場したとき、画家という職業は遠からず消滅すると一部では考えられましたが、事実は全く違う方向に進みました。もちろん写真は写真で良く、また絵は絵で良く、それは勝ち負けの問題ではない…と人々が気付いたからでしょう。

同じように、天文趣味が「趣味」として純化すれば、必ずやスケッチが復活すると思っていましたが、いよいよ機が熟してきたのかもしれませんね。対象に向き合うには、スケッチは本当に良い手段ですし、それは科学的価値とは全く違った次元の価値を持っていると思います。

見つめる楽しさ、表現する楽しさ、これは天体スケッチも、ふつうの風景スケッチと変わりません。日曜画家がキャンパスに向かうのは、何も上手に描いて人に感心してもらおうとか、ひょっとしたらこの絵が高く売れるんじゃないかとか、そんなこととは全く関係なしに、対象と向き合うこと自体が楽しいからでしょう。

…何だか妙に力こぶが入ってしまいましたが、<眼視+スケッチ>のムーヴメント復活は存外近いような気がしています。

_ 霜ヒゲ ― 2009年08月07日 20時15分50秒

お邪魔します。

素敵な御本ですね。タイトルに惹かれ、星雲星団の関係の本をほぼ20年ぶりに購入しました。ゆっくりと読ませて頂き、自分の小望遠鏡でどこまでハーシェルのコメントが感じとれるか試してみたいと思います。とても楽しみです。

別項目になりますが、山本博士に関する記述についてですが、
天界407号(山本一清先生を偲ぶ)と星の手帖vol6(日本の天文学者)の中の村上忠敬(山本一清博士伝)と村山定男(天文の先生方)が比較的詳しいと思います。
天界の方には、ご令息や三高時代の親友の方を始め数多く方の追悼文が掲載されていますし、星の手帖の大崎正次(神田茂先生と私)なども興味深いと思います。

いったん終了とのことですが、次の機会にも期待させてください。

_ 玉青 ― 2009年08月07日 21時35分54秒

霜ヒゲ様

こんばんは。コメントならびにご購入ありがとうございました。
ハーシェルの世界を堪能していただけましたら幸いです(と、自分が堪能していないのに言うのは、一寸怠慢ですが…)。

山本博士の件もどうもありがとうございます。
探せば世間にはいろいろと情報があるものですね。
私は山本博士のことを、かなり単純化して考えてしまいましたが、もちろん現実の博士はもっと陰影に富んだ人物だったでしょう。多くの人の見方を複眼的に参照することで、山本一清という人物に、よりリアリティを持って接近できたらいいなと思っています。

_ shigeyuki ― 2009年08月07日 23時59分52秒

ご出版おめでとうございます。
精力的に訳書を出版されてますね。
眼視派のための一冊、ですか。空を見上げ、星を探して筒内に捕らえるというアナログな行動は、それ自体が大きな意味を持つことですよね。

_ 玉青 ― 2009年08月08日 10時38分05秒

shigeyukiさま、ありがとうございます。

どこでもドアでは、「移動」はできても、「旅」はできません。
空の旅人もまた、大いに彷徨って、いろいろな経験をするのがいいんでしょうね。
幸い、星見の旅で道に迷っても、命に別条はありませんから(笑。

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