さらに「子供の科学」のこと2009年12月29日 00時39分10秒

(一応12月20日の記事の続きですが、これまたジョバンニとはちょっと遠い話なので、別タイトルにします。)

先の記事中、井田誠夫氏の「銀河鉄道」に関する論考を引用し、「子供の科学」誌が、昭和8年の9月号で天文特集を組んでいることに触れました。

写真はその翌年、昭和9年の9月号。
「子供の科学」では、この頃毎年9月に天文特集を組んでいたらしく、この号もやっぱり「特輯 天文号」と銘打っています。
編集後記には、「広茫果しない大空が心地よく澄みきって、天の川の底に沈む銀梨地の砂粒のやうな星の一つ一つがハッキリと見える季節になりました。皆様がお待兼の天文号、今年は大ふんばり増大号として『天体観察の手引き』を特集しました」云々とあります。

で、宇宙船で月世界を目指す表紙絵もすごいのですが、中身がまたいちいち面白くて、それも記事本編よりも広告とか投稿欄とかが一層興味深く、ついつい瑣末なところを読みふけってしまいます。

当時は雑誌を紐帯にして理科少年のネットワークが強固に形成されていたらしく、投稿欄には独特のムードが漂っています。

「談話室の皆さん。私も仲間に入れて下さい。私は相中の三年生です。
模型飛行機のファンの一人です。否世界各国の飛行機の性能小研究家
を自認してゐる者です。モデル・プレインに趣味をお持ちの方お便り
を下さい。愛機の写真をお送致しませう。お待ちして居りまし〔ママ〕
/福島県相馬町 加藤鉄三」

「僕は『子科』を昨年の八月から愛読致して居ります、子科は他の科
学雑誌よりダンゼン優秀で雑誌界の第一人者といつてよろしいでせう。
僕は今尋常六年生でありますが大人になってからも子科を愛読したい
と思つて居ります。まだ初歩ですからご指導下さい。(電気に趣味をも
つて居ります)子科の発展及び記者様の健康を祈つて失礼させて頂き
ます。/東京市荏原区 伊藤康夫」

「談話室の皆様御気元よう〔ママ〕。僕も『子科』の愛読者にならせて
いたゞきます。東京の小林一君と同じに天文学に趣味を持つておりま
す。そして天体望遠鏡を手に持つて、月、太陽、水星等のなぞをとき、
歴史にのこるやうな大天文学者にならうと心がけております。天体ファ
ンは御手紙下さい。/埼玉県羽生町 笠松敏雄」

「七月号を手にすると急に皆様がなつかしくなつてお仲間入りをいた
します。私に別に趣味と言つてありませんが『子科』の記事をいろい
ろに分けて集めて居ます、まあ趣味と言へば博物と物理の研究くらい
の所です。今中学一年生ですが理科の点はいつもよい方です。皆様お
便り下さい。お待ちして居ます。/呉市 石田順一」

…といった個人の投稿や、各地に結成されつつあった「岳南科学研究会」やら「旭光少年科学愛好会」やら「中央模型飛行機統制研究会」やら、諸団体の会員募集広告が大量に載っていて、何だか大変な状況になっています。実に熱いです。

一連の投稿を見ていると、往時の理科少年は皆相当な「小天狗」ですね。平成の少年たちはすっかり脂気が抜けて、常に自分を客観視しているので、戦前の少年たちの強烈な自負の言葉を聞いても、微妙な笑いを以て応えるだけでしょうが、しかし…うーん…この辺りはどう評価すべきなのでしょう。どちらかが良くて、どちらかが悪い、という単純なものでもないのでしょうが…。

(この項続く)