『星恋』 (2) ― 2010年01月02日 15時16分09秒
(本の第一頁をかざる誓子の自筆句)
「星恋」の書名は、本書に収録された同名の随筆に由来するようです。
ここで抱影が恋慕している星は<カノープス>。
今でも天文イベントで、「カノープスを見る会」などが開かれますが、その火付け役は抱影でしょう。
「北へ緯度の高い土地から南の星を恋ふる気持にも、
この山へのあこがれに通じたものがある。〔…〕更に
南の果てに低く輝き出て程なく沈んでしまふ星とな
ると、なまじ見えるだけに、喜びと共に遣るせない
思ひをも誘はれるのである。
〔…〕日本の緯度では、アルゴー座の主星カノープ
ス、南極老人星がこれを代表する。しかも東京では
高度漸く二度、一月下旬からきさらぎ寒の頃、南の
地平のそれも町明りがなく、また朦気の少い夜でな
い限りは見ることはできない。南方では青白い爛々
たる超一等星だが、ここでは火星のやうに赤茶けて
ゐる。」
抱影はこれに続けて、信州更科の某夫人から送られた手記を引用します。
彼女は家の大屋根に梯子をかけて、カノープスを一目見ようと何度も試みるのですが、ある晩はるか南の地を這うように、見慣れぬ赤い星がちらちらするのを見ます。果たしてカノープスか?それともまだ誰も見ぬ新星か…?
「あこがれの星影と見たのは、遠くから自分の家へ風呂を貰いに来る提灯の灯だった。これだけでも句になると私は思ったが、更に提灯の主が炭焼の親子連れなのは、いかにも信濃の山村の寒夜情景らしくて、しばらくは私を陶然とさせてくれた。」
1月の章に収められている文章です。こういうのを抱影節というのでしょうね。
誓子も抱影に唱和して曰く、
星恋の またひととせの はじめの夜
まさに新年を飾るにふさわしい句。
この本を思い出させてくれた、かすてんさんに改めてお礼申し上げます。
「星恋」の書名は、本書に収録された同名の随筆に由来するようです。
ここで抱影が恋慕している星は<カノープス>。
今でも天文イベントで、「カノープスを見る会」などが開かれますが、その火付け役は抱影でしょう。
「北へ緯度の高い土地から南の星を恋ふる気持にも、
この山へのあこがれに通じたものがある。〔…〕更に
南の果てに低く輝き出て程なく沈んでしまふ星とな
ると、なまじ見えるだけに、喜びと共に遣るせない
思ひをも誘はれるのである。
〔…〕日本の緯度では、アルゴー座の主星カノープ
ス、南極老人星がこれを代表する。しかも東京では
高度漸く二度、一月下旬からきさらぎ寒の頃、南の
地平のそれも町明りがなく、また朦気の少い夜でな
い限りは見ることはできない。南方では青白い爛々
たる超一等星だが、ここでは火星のやうに赤茶けて
ゐる。」
抱影はこれに続けて、信州更科の某夫人から送られた手記を引用します。
彼女は家の大屋根に梯子をかけて、カノープスを一目見ようと何度も試みるのですが、ある晩はるか南の地を這うように、見慣れぬ赤い星がちらちらするのを見ます。果たしてカノープスか?それともまだ誰も見ぬ新星か…?
「あこがれの星影と見たのは、遠くから自分の家へ風呂を貰いに来る提灯の灯だった。これだけでも句になると私は思ったが、更に提灯の主が炭焼の親子連れなのは、いかにも信濃の山村の寒夜情景らしくて、しばらくは私を陶然とさせてくれた。」
1月の章に収められている文章です。こういうのを抱影節というのでしょうね。
誓子も抱影に唱和して曰く、
星恋の またひととせの はじめの夜
まさに新年を飾るにふさわしい句。
この本を思い出させてくれた、かすてんさんに改めてお礼申し上げます。
コメント
_ かすてん ― 2010年01月02日 23時43分17秒
_ S.U ― 2010年01月03日 07時37分51秒
私が 『星戀』 の中で、いちばん好きな句は、かすてんさんの取り上げられた新年の句のほかに、
手を洗ひ寒星の座に向かいけり
です。この句の私のイメージは、冬の夜、屋外の手洗いに行った時に、ふと空を見ると、すばるが出ていたというものです。
俳句は旧暦の季節感が味わえるので貴重だと思っています。現代では「冬」のさなかに「新年」が入っているので、上の句など年越しの前後のどちらかだろうかと考える楽しみもあります。
手を洗ひ寒星の座に向かいけり
です。この句の私のイメージは、冬の夜、屋外の手洗いに行った時に、ふと空を見ると、すばるが出ていたというものです。
俳句は旧暦の季節感が味わえるので貴重だと思っています。現代では「冬」のさなかに「新年」が入っているので、上の句など年越しの前後のどちらかだろうかと考える楽しみもあります。
_ shigeyuki ― 2010年01月04日 00時12分06秒
ちょっと出遅れましたが、新年あけましておめでとうございます。
今年もどうかよろしくお願いします。
「星恋」、そんな本があるのは知ってましたが、読んだことはありませんでした。でも、これは素敵な本のようですね。読んでみたくなりました。
今年もどうかよろしくお願いします。
「星恋」、そんな本があるのは知ってましたが、読んだことはありませんでした。でも、これは素敵な本のようですね。読んでみたくなりました。
_ 玉青 ― 2010年01月04日 00時31分16秒
○かすてんさま
いえいえ、同じ一冊の本でも、人それぞれに興味の置きどころが違うのがまた面白いところですので、ここは一つ、かすてんさんなりの切り口でご紹介いただければと思います。
○S.Uさま
「手を洗ひ…」は、ふくらみのある句ですね。いろいろな情景がぼんやりと思い浮かびます。『星恋』では11月に掲出されているので、木枯らしの季節でしょうか。流水の冷たさと、星の光の冷たさ。はるか天上の星座と、それを見上げている小さな自分。そうした対比の中に、一種の情調を感じさせる佳句(←えせ俳句選者風;)。
○shigeyukiさま
こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
さてさて、図らずも『星恋』の普及に一役買ったようで、実に光栄です。
これは地味に良い本ですので、じんわりした気分を味わいたい時などに是非ご一読ください。
いえいえ、同じ一冊の本でも、人それぞれに興味の置きどころが違うのがまた面白いところですので、ここは一つ、かすてんさんなりの切り口でご紹介いただければと思います。
○S.Uさま
「手を洗ひ…」は、ふくらみのある句ですね。いろいろな情景がぼんやりと思い浮かびます。『星恋』では11月に掲出されているので、木枯らしの季節でしょうか。流水の冷たさと、星の光の冷たさ。はるか天上の星座と、それを見上げている小さな自分。そうした対比の中に、一種の情調を感じさせる佳句(←えせ俳句選者風;)。
○shigeyukiさま
こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
さてさて、図らずも『星恋』の普及に一役買ったようで、実に光栄です。
これは地味に良い本ですので、じんわりした気分を味わいたい時などに是非ご一読ください。
_ S.U ― 2010年01月04日 18時32分06秒
玉青様、
>「手を洗ひ…」は、...『星恋』では11月
『星恋』は1カ月単位で俳句が分類されていましたね。新暦の11月として、寒星がすばるならば宵の口でも良し、シリウスならば、誓子さんけっこう深夜に外に出ましたね、などと無粋な推察ができるところが、また星の俳句ならではの楽しみです。
>「手を洗ひ…」は、...『星恋』では11月
『星恋』は1カ月単位で俳句が分類されていましたね。新暦の11月として、寒星がすばるならば宵の口でも良し、シリウスならば、誓子さんけっこう深夜に外に出ましたね、などと無粋な推察ができるところが、また星の俳句ならではの楽しみです。
_ 玉青 ― 2010年01月04日 21時04分43秒
「寒星の座」が単純に<冬の星座>の意味だとすると、深更に冬の星座と向き合い、間もなく本格的な冬がやって来ることを感じとった…という情景でしょうか。
ちなみに、旧版の序文で、誓子は自分が「偏愛する星座」として、「北斗・白鳥・ペガスス・カシオペヤ・馭者・牡牛・双子・鯨・兎・オリオン・大犬」を挙げています。
詞書によると、この句は11月11日に伊勢で詠んだものですから、早見盤を回してみると…おお、なるほど。おおいぬやオリオンあたりだと、おっしゃる通り、かなり宵っぱりの句ですね。
ちなみに、旧版の序文で、誓子は自分が「偏愛する星座」として、「北斗・白鳥・ペガスス・カシオペヤ・馭者・牡牛・双子・鯨・兎・オリオン・大犬」を挙げています。
詞書によると、この句は11月11日に伊勢で詠んだものですから、早見盤を回してみると…おお、なるほど。おおいぬやオリオンあたりだと、おっしゃる通り、かなり宵っぱりの句ですね。
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いずれ紹介したいと書きながらそのままにしてしまいましたが、玉青さんのを読んで今更私が書くまでも無いことを感じました。