昭和9年、「子供の科学」天文特集号2010年01月17日 19時39分36秒

去年の暮れに書きかけた記事の続きです。

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この間、小林健二さんの天文少年時代の思い出話を載せました。
小林さんは1957年の生まれなので、あれは1960年代末のエピソードでしょう。

そこから、さらに35年ほどさかのぼった、昭和9年(1934)。
昭和9年といえば、宮沢賢治が前年に世を去り、小林さんのお父さんか、もうちょっと上の世代が少年時代を過ごした頃。戦争の影が濃くなるには、まだちょっと間があります。

この年、「子供の科学」では、9月号で天文特集を組んでいます。
そのことは、先月29日・30日の記事で少し触れたのですが、まだその中身を見ていなかったので、ここで見ておきます。

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表紙を見ると(http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/12/29/4782742)、この9月号には別冊付録として、「最新天体写真帖」というのが付いていたらしいのですが、残念ながら、手元の古本には附属しません。雑誌の編集後記によると、「天体の凡ゆるものに渡って、重要なものを漏らすところなく網羅」し、「かくの如く完備したものは、単行本としても未だ本邦に出版されて」いないので、「如何に貴重なる大附録であるかをはっきり知って頂きたい」…という力作らしいです。

まあ、それは話半分に聞くにしても、ちゃんとした天体写真集はまだ日本では出ていなかったので、当時の天文少年のバイブルとして重宝されたのは確かでしょう。今の目から見れば非常にチープなものだとは思いますが、天文趣味史の貴重な資料として、是非見てみたいと思います。

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さて、上に9月号の目次を大きなサイズのままアップしました(クリックで拡大)。

天文特集の中身として、目玉になっているのが、東京天文台のスタッフを駆り出してまとめた、「小型望遠鏡で○○○」という一連の記事です。○○○に入るのは、「太陽の観測法」であったり、「惑星の観測の仕方」であったり、他にも彗星、星雲、変光星の観測などがあがっています。新星や黄道光などは、記事を見ると望遠鏡とは関係ない内容なのに、目次では無理やり「小型望遠鏡」が枕詞になっています。

戦前にあっても、天体望遠鏡がいかに天文少年の重大関心事であったかが分かります。

記事を見ると、

「時代の要求か、近頃かなりあちこちに天文熱がさかんになって、望遠鏡を持っておられる方が余程増えたやうだ。同慶のいたりにたへない」(吉田玄馬)

とか、

「お父様に望遠鏡を買っていただきました。そしてお月様や、太陽や土星や木星等をもう見あきる程見てしまひました〔…〕と貴方がおっしゃるなら、私はその次に見るべきものを教へてあげませう。それはめづらしい星雲です」(水野良平)

といった記述が見られます。

記事のラインナップを見る限り、その観望対象は、戦後と連続している部分が多いように思います。そのこと自体興味深いのですが、ただ実際のところ、当時どれぐらい望遠鏡が普及していたのでしょうか?それを一寸考えてみたいと思います。

(この項つづく)