『天体議会』のモデルの地をたどる…六甲2010年02月05日 22時29分29秒

さて、神戸旅行の続きです。
王子公園の神戸文学館の次は、阪急で一駅移動し、六甲へ。

我ながら酔狂だなとは思いましたが、『天体議会』の主人公の少年たちが通う学校が、どうもこの辺りにあるような気がしたのです。

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「彼の通う学校は市街地を山沿いに外れた橡(つるばみ)の林の中にある。初等級、中等級、高等級の三部に別れ、最年少の第十一学級〔クラス〕から順に第一学級〔クラス〕までと、それに最終学級〔クラス〕を加えた十二学年の学校だ。」

「校舎は斜面に沿って幾棟にも分かれて建ち、それぞれは渡り廊下や階段で結ばれていた。〔…〕最も高いところには理科教室をはじめとして、化学の実験室や暗室などのある理化学校舎と、私設天文台があった。その校舎に向かう階段からは、碧瑠璃〔へきるり〕の水平線を遥かに望むことができる。」

「学校じゅうで海が見えるのは、橡の林を抜けたところにある理化学校舎周辺に限られていた。しかし、岸壁は意外に近くにあり、授業中などまのびした汽笛が聞こえてくることも珍しくない。さらに天〔そら〕が高く澄みわたる今ごろは、沖合の島から打ち上げられる人工天体のロケットが、大気を突き抜けてゆく音も耳に届く。眩しく煌めく真珠銀〔しんじゅぎん〕の機体を、生徒たちはジェラルミンの天使と呼んでいた。」

主人公の銅貨と水蓮は第四学級の13歳、銅貨の兄・藍生(あおい)は最終学級の17歳という設定で、並みの言い方をすれば、それぞれ中学2年生と高校3年生ということになります。

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神戸の学校で山の斜面に立つ学校はたくさんありますが、中高一貫の男子校(作中の学校は小中高一貫校ですが)を探すと、どうも六甲学院(六甲中学・高校)が怪しい…。ほとんど妄想に近い感じもありますが、ひたぶるに六甲学院を目指し、急坂を上りました。

とにかく、ものすごい坂です。神戸の人はこうやって毎日足腰を鍛えているので、すみやかに震災から立ち直ったのではあるまいかと、半ば本気で思いました。

(市街地から一気に立ち上がる神戸の山並。六甲付近。)

 やっとの思いで学校までたどり着いたものの、あまりジロジロ覗きこむのも憚られたので(しかも写真まで撮って、いかにも怪しい人間)、早々に立ち去りました。

(六甲学院正面)

これだけ見るとごく普通の学校建築ですが、あとから校内図を見たら、おお、ちゃんと理科校舎が独立していますね。この点は作品世界に近い感じです。

(校舎をつなぐ渡り廊下・階段)

学校案内を見たら、ちゃんと天文気象部もあります。
平成21年6月現在、部員は1名ですが(がんばれ!)、他に物理部もあって、そちらは26名在籍しているので、当分は安泰そうです。

坂を下って駅に戻る途中、正面には水平線が広がっていました。写真では白飛びして分かりにくいのですが、遠景は港と船です。目をこらせば沖合の神戸空港も見えたかもしれません。(左下の3人連れは下校する六甲生。)


そして、すぐそばに立つ楕円柱状のふしぎなマンションのベランダには、天体望遠鏡がチラリと見えました。なかなかいい風情ですね。


何ら確証はありませんが、総合的に考えて、六甲学院を作中の学校のモデル候補に推したいと思いますが、いかがでしょうか。

コメント

_ S.U ― 2010年02月06日 12時18分38秒

私も玉青さんの心意気に引かれて、市立図書館で『天体議会』を借りて読み始めました。

 神戸かどうかの考証は玉青さんにお任せしますが、こりゃ、確かに足穂であり、山陽方面ですなぁ。水蓮の最初の描写のところで「花崗岩」が出てきたのでそう感じました。

 それから、観測会の招集がかかった10月22日のアンタレス食は、実際にあった1990年10月22日のアンタレス食がモデルになっているようです。これは、西に低かったので、近畿地方以西でないとよく見えませんでした。

_ 玉青 ― 2010年02月06日 18時32分27秒

やや、これは!
貴重な情報をありがとうございます。
あのアンタレス食にもモデルがあったとは気づきませんでした。
天体現象によってモデル地を絞り込むというのは、いかにもという感じでいいですね。

ところで、「花崗岩」を長野氏は「みかげ」と読ませています。
足穂は逆に「カコウガン」と読まねば収まらず、教師が「みかげいし」と読んだのに憤慨しましたが、でも本物の「御影」と六甲山は好きだった…そんなことを思い出しました。

_ S.U ― 2010年02月06日 21時11分23秒

『天体議会』を一通り読み終えました。面白い文学のご紹介ありがとうございました。登場人物の交友関係については一度読んだだけでは得心できませんでしたが、随所に現れるのが足穂アイテムであることは間違いありません。私は、少年たちがラジオで気象通報や人工天体打ち上げ情報を聞いていることに惹かれました。

 その後に出てくる、すばるの食、火星の接近、昼間のアンタレス食、海外での金環日食も、すべて1990年11月~91年1月に実際に起こった天文現象ですので、長野まゆみ氏は月刊天文誌でも参考にされたのではないかと思います。まあでもこれから観測地を特定することは難しいようですね。

_ 玉青 ― 2010年02月08日 06時19分03秒

当時リアルタイムで読んだ天文ファンは、「ははあ」と思ったかもしれませんが、今となってはなかなか気づかれない点ですね。貴重なご指摘だと思います。

ラジオには私も惹かれました。あとコークスストーブとか。
未来と過去の入り混じり具合に作者の美意識が反映されているのでしょうね。

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