トアロード、六甲昆虫館2010年02月10日 19時18分20秒

読まれるかたもだいぶお疲れだと思いますが、歩く方もいい加減くたびれてきました。
とはいえ、今回、実際に町の外延をたどってみて、つくづく感じたのは神戸の町の「程の良さ」。地図で見ると、旧市街のさしわたしは東西約5kmですから、歩いて回るのに丁度よい、まさにヒューマンスケールの都市ですね。

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午後の日が徐々に傾く中、いよいよ神戸の中で最もタルホ的な場所、トアロードを目指します。諏訪山公園からは徒歩で10分ぐらいですから、もう目の前です。

写真はトアロードの北のつきあたり。


画面左手が、通りの名前の由来となった旧トアホテル(東亜ホテル)、すなわち現在の神戸外国倶楽部の敷地です。足穂は、自分は文学碑など大嫌いだが、どうしてもというなら、トアロードのつきあたりに…と言ったらしいですが、ここがその場所。それにちなんで、私はここである儀式をしました(そのことはまた後日)。

トアロードはここから真一文字に南へ下り、旧居留地をつっきって、メリケン波止場へと至ります。ハイカラ・シティ・神戸の中でも、とりわけハイカラな通り…だった場所。今でも、“いかにも”という老舗があったり、その香気は残るものの、往時に比べるとだいぶ散文的になっているんじゃないでしょうか(昔を知らないので断言はできませんが)。

   ★

ここまで来たら、すぐそばの「六甲昆虫館」を再訪しないわけにはいきません。
一昨年の訪問記録

今回はカメラ持参なので、自前の写真でご紹介することができます。



少年の夢を誘うショーウィンドウ。夕刻にいくと、ここに灯が入り、いっそう幻想的な雰囲気になります。


中はまさに昆虫一色です。ダークブラウンの色調のインテリアが好ましい。
写真には写っていませんが、店の奥が工房になっていて、ご主人はそこで昆虫ケースを加工したり、あるいは、帳場でまどろんでいたりするのですが、うーん、実に羨ましいです。


品ぞろえは蝶・蛾がメインですが、もちろんそれ以外の種類もあります。
今回いそいそと購入したのは下の標本。


(左)ペルーのshima地方産の雑甲虫10種とカマキリのアソート。
種名は判然としませんが、タマムシ、カブトムシ、カミキリ、テントウムシダマシ、ハネカクシ他が、生態標本風にコルク樫の粗い樹皮にディスプレイされています。昨年、現地でご主人が自採されたものだとか。

(右)はヘルマン・ヘッセを気取ってクジャクヤママユ。
かおりさんの「レモンと実験」で関連記事を拝見して、ちょっと気になっていました。

  ★

さあ、あとは神戸に鎮座するヴンダーショップ「ランスハップブック」に寄って、ホテルにチェックインするばかりです。

コメント

_ S.U ― 2010年02月10日 23時01分09秒

>ヘルマン・ヘッセを気取ってクジャクヤママユ
 あぁー★。昆虫が苦手な私に、あの恐ろしい名作を何十年かぶりに思い出させてくれましたねーー(笑)

_ 玉青 ― 2010年02月13日 10時45分36秒

(笑)お心を乱してしまい、申し訳ありませんでした。

ところで、、昆虫一般は好きでも、蛾は苦手という人も多いようですね。
あの作品の少年たちは(蝶はいいとしても)なぜ薄気味悪い蛾にあんなに夢中になっているのか、釈然としない思いを抱いた人は少なくないでしょう。(私自身もそうでした。)

チョウとガをめぐるイメージは、国によって、時代によって、かなり変わるようです。一般に日本人は蝶を好み、蛾を嫌う傾向にありますが、なんでも蝶と蛾を言葉の上で区別しない国の方が多いそうなので、現代の日本人の感覚の方がちょっと特殊なのかもしれません。

その日本人にしても、「チョウ」は漢字の音読みですから、昔の日本人は蝶にあまり関心がなかったのでしょう。「蝶は美しい」という観念自体が外来のものらしく、「美しい蝶」をことさらに「胡蝶」と呼ぶのは、その名残だという話を聞いたことがあります。

英語の butterfly にしても、なぜ「バターの蠅」なのか。その語源はよくわからないそうですが、でも、あまりきれいなイメージではないですね。

「蝶と蛾をめぐるイメージの博物誌」は、どなたかもうまとめられているかもしれませんが、そういうものがあれば読んでみたいと思っています。

_ S.U ― 2010年02月13日 15時34分40秒

確かに日本人のチョウのイメージで、図柄に出てくる「胡蝶」というのは西域風のものですね。でも仮名で「てふてふ」と書けば、音読みであっても韃靼海峡を渡っても日本風のイメージに聞こえます。日本のガといえば思い浮かぶのはモスラですが、これが映画で善玉であったのは興味深いです。おそらく当時まだ盛んであった養蚕業の影響だと思います。しかし、これらはいずれも近代以後のイメージで、古くは日本でも一般にはチョウとガの区別はあまりなかったのではないかと思います。かつて、農業をしている大人たちが害虫の識別にはえらく詳しいのに、チョウとガの区別には冷淡であったことが印象に残っています。

 さて、ヘッセの小説ですが、以前ハーシェル協会にお知らせしました小学1年生向けの伝記集『偉人の少年時代』に、「つぶれた ちょうちょ(へるまん・へっせ)」というのがあって、ヘッセ自身が関与した実話ということになっています。そこでは、クジャクヤママユは「はくがたろう という おおきな ちょうちょ」ということになっています。「はくがたろう」については不詳ですが「白蛾太郎」かなにかなのでしょう。明らかに蛾っぽい名前なので、これを訳者がチョウチョということにしたのは意図があってのことかもしれません。

 私はチョウもガも同様に苦手ですが、それらについて議論するのはそれほど苦手ではないようです。

_ 玉青 ― 2010年02月13日 16時38分26秒

では遠慮なく蛾の話を(笑)。

「はくがたろう」は、たぶん「白髪太郎」の誤読でしょう。
「しらがたろう」は、標準和名でいう「クスサン」のことで、ヤママユガの仲間ですから、クジャクヤママユの訳語としてはわりと近い線を行ってます。

聞くところによると、ドイツ語は英語と違って、「蛾」を総称する一般語彙がなくて、蝶も蛾もいっしょくたにして Schmetterling あるいは Falter と呼ぶので、和訳には苦労するようです。とはいえ、一般向けにはほとんど「蝶」の語を当てて、それで用が足りているので、件の伝記作者もそれに引きずられたのかもしれませんね。

_ S.U ― 2010年02月14日 08時59分13秒

あぁ、クスサンならよく知っています。私の少年の日には、秋口に玄関先やら学校の下駄箱の近くで死んでいて、今までに何度もひどい目にあっていますから。でもクスサンの標本だったら心をときめかすほどの希少価値はないように思います。ヤママユガは羽が大きくて気持ち悪さ度もアップです。オオミズアオもよく玄関先で死んでいました。透き通るような美しい水色でしたが、そのぶん気色悪さも maximum でした。
 チョウもガも総じて苦手な人ばかりの中で比べると、私ほど詳しい人はちょっといないかもしれません(笑)

_ 玉青 ― 2010年02月14日 19時54分57秒

厭さ加減が行間からはっきりと伝わってきます(笑)。
S.U少年は、ガのむくろを前にして、「げえっ!」と声に出さぬまでも、幾度となく心で叫んだことでしょう。

ボテッとして、粉っぽくて、触角なんか妙にふさふさして、昆虫の標準からすると馬鹿に図体が大きくて、何とも気色悪い存在。ええ、よく分かります。私も正直、ガは苦手です。どうも、あまり昆虫っぽくないところがイヤです。

しかし、オオミズアオにはちょっと心魅かれるものがあります。
あの幽霊じみた姿を見ると、北杜夫の昆虫小説『幽霊』を思い出すのですが、でも今となってはどんな話だったか、そもそも作品中にオオミズアオが登場したのかどうか、さっぱり思い出せません。

_ S.U ― 2010年02月15日 20時49分58秒

でも、玉青さんは、好きな種類と多少気色の悪い種類がいるというだけで、昆虫も蛾もまあ総じてお好きなのでしょう。昆虫嫌いは、全部嫌いで、多少は我慢のできるのと、どうにも我慢のならないのとがある、ということではないでしょうか。

_ 玉青 ― 2010年02月16日 20時45分50秒

私が苦手な虫。スズメガ、ガガンボ、カマドウマ。
いずれも子供の頃の経験と結び付いています。
まあ、こういのは一種の「刷り込み」なんでしょうね。

_ S.U ― 2010年02月17日 07時15分14秒

何となくわかります。意外性の大きい虫たち、花にたかる蝶か蜂かと思えば蛾、蚊を虫眼鏡で見ているのかと思えば実物大、前後どちらに跳躍しているのかわからない... 私にとってはこれらの虫は、乾いていて陽性なので「多少は我慢のできる」部類にはいります。

_ 日本文化昆虫学研究所 ― 2010年02月24日 00時02分51秒

 こんにちは.
 はじめまして.
 日本文化昆虫学研究所というものです.
 わたしは,特にジョウカイボン(ホタルに近縁な甲虫です)をはじめとするコウチュウの仲間などを趣味で収集するとともに,それらの生態を研究しています(昆虫愛好家です).
 また,最近では昆虫とひととの文化的な関わり合いについても(文化昆虫学)研究しています.そんなこともあり,昆虫の標本について時々紹介されている貴ブログには,これまでにちょくちょくとおじゃまさせていただいていました.
 この記事を興味深く拝読させていただきました.私見ですが,この記事に掲載されているお店を見る限りでは,どちらかというとアンティーク的(置物的)な扱いで昆虫標本を販売しているように見えます.というのも,ひとつの標本箱にオオルリアゲハとモルフォチョウが並んでいます.これは,青い金属光沢をはなつという点では共通していますが,分類群的には大きく異なります.どちらかというと,昆虫学者的なチョウ類愛好家は,分類群別に標本をならべる傾向があります(もちろん,昆虫自体には様々な価値が含まれていますので,これが正しいというわけではありません).博物学的・審美的・文化的な価値観を追求すると,紹介されたお店に並んでいるような標本がそろうのではないかと思います.機会があれば,一度この店をおとずれてみたいと思いました.
 失礼しました.

_ 玉青 ― 2010年02月24日 21時46分45秒

日本文化昆虫学研究所さま

はじめまして。
お名前にまず圧倒されました。
文化昆虫学という学問分野があることすら知らずにおり、お恥ずかしい限りです。
そう伺ってみれば、この記事のコメント欄でやりとりしていたような、チョウとガの話はもちろん、そもそも私のような人間が、昆虫をネタに太平楽を並べている姿も、文化昆虫学の考察対象となるんでしょうね(笑)。

さて、六甲昆虫館。ここは間違いなく審美的観点から昆虫を扱っている店だと思います。マニアの方は一寸辛い点を付けられるかもしれませんね。あるいは、そういう経営のあり方が、これまた文化昆虫学の素材になるのかもしれませんが…。

なにはともあれ、ぜひ一度お訪ねください。

今後ともどうぞよろしくお願いします。

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