不思議を売る店2010年02月13日 16時42分00秒

今回の旅の大きな楽しみが、神戸のヴンダーショップ(と勝手に呼ばせていただきますが)ランスハップブックを訪れることでした。

Landschapboek : antique books and art goods(ブログ)
店舗詳細はこちらの記事に。

場所は下山手通の南、鯉川筋からちょっと東に入ったところ。
でも、最初は場所がぜんぜん分かりませんでした。このあたりだろうと見当をつけてグルグル回っても見つからず、「まさかこんな所にはあるまい」と最初素通りした、人がやっとすれ違えるぐらいの細い路地を入ったら、ありました、ありました。何だか有り得べからざるものが在るような、不思議な感じでした。

黄昏どきの店内には灯が入っています。

ショーウィンドウのディスプレイもいいですね。
博物館のようなイメージで作られたお店…ということで、見るからにヴンダー度は高いです。

   ★ ☆

土地柄、ここで連想したのは、足穂の神戸モノの代表作・『星を売る店』でした。

が、この時横切ろうとした辻の向うがわに、
ふしぎな青色にかがやいている窓を見た。
青い光に縁がある晩だ。こんどは何者であろう、
と近づいてみると、何と、その小さなガラス窓
の内部はきらきらした金米糖でいっぱいでないか!
ふつうの宝石の大きさのものから、ボンボンの
つぶくらいまで、色はとりどり、赤、紫、緑、黄、
それらの中間色のあらゆる種類がある。

これが三段になったガラス棚の上にのせられて、
互いに競争するように光っている。うしろに
色刷のポスターが下がっていた。アラビア風俗の
白い頭巾と衣をかけた人物が五、六人集まって、
かれらの頭上にある星屑を、先に袋がついた
長い竿でかき集めているところである。

〔…〕

「それで―」と待ちかねて私は口を挟んだ。
「いったい何物なんです?」
「星でございます」
「星だって?」

   ★ ☆

私もドアをくぐり、この不思議な店で、何か不思議な物を買おうと思いました。
店内には、理科掛図、博物画、額装された植物標本、古いプレパラート、様々な宗教的モチーフの品、etcがずらっと並んでいて、大いに食指が動きました。
…が、どうも手持ちの品と微妙にかぶるんですね。
石版の古い軟骨魚類の掛図なんかは、なかなか良かったのですが、一寸値段が折り合わず。

結局買ったのは、小さな貝の標本1つだけでした。

オーストラリア産のMurex dendatus(ハダカガンゼキ)、高さ約4cm。
フランスで買い付けたものだそうです。
(実はこの貝のそばに置かれていたデロールの値札が欲しかったのですが、そちらはディスプレイ用とのことで入手できませんでした。)

  ★

こうして旅の1日目は終りました。
トアロードそばのホテルには、金平糖のような星型のペンダントがずらりと下がり、鈍い光を廊下に投げかけていました。


コメント

_ S.U ― 2010年02月15日 20時31分52秒

『星を売る店』で売られている「星」にはいろいろな薬効があり、かつ、エネルギー源としても働くようですが、どういう物質でできているのでしょうか。たとえば、足穂の星は鉱物的なものか、それとも人間の感覚を迷わせるスピリット的な物か、それとも執筆当時提唱されたばかりの恒星の核融合エネルギー理論を知っていたのか。足穂は様々な「物質感覚」を開発してきましたが、足穂の「物質科学」がどんなものであったかまだまとまったものを見たことがありません。基本的なことがらから整理してみたいと思いますが、とっかかりすらわかりません。

_ 玉青 ― 2010年02月16日 20時36分12秒

初期の作品と、後の作品とでまた違うかもしれませんが、個人的な印象としては、足穂の描く星は総じて人間臭いですね。遥かな高みにあるものを、ことさらに矮小化したいという欲望すら感じます。そして、地上にある鉱物の方が、むしろ人間から遠い非情の存在としてイメージされているようにも思います。

こう書くと、あるいはS.Uさんの問題設定とは逆に、足穂のアニミズムを問題にすることになるのかもしれませんが。。。

_ S.U ― 2010年02月17日 07時09分14秒

こりゃ難しいですね。足穂さんは、自分が鉱物だったらよいとか星だったらよいとか、よくわからないことをのたまわりつつ、それでも十分に人間臭い生活もされていた方ですからね。多少、時間をかけても何とか解明したいと思います。

_ 玉青 ― 2010年02月17日 19時33分28秒

>人間臭い生活

酒臭い生活、でしょうか(笑)。
たしかにタルホ氏は、物質と精神の交互作用について、また人間はいかに容易に一個の物質の塊と化しうるか、体験によって熟知されていたことでしょう。

実はたった今、私もその作用を夕餉の場で実験してみたところです。

_ たのけのあむら ― 2010年03月07日 21時59分39秒

 はじめまして、「たのけのあむら」と申します。以前からずっと愛読させて頂いて居ります。
 このエントリーを読ませて頂いて、今日、こちらのLandschapboekを訪ねてきました、こちらに書かれていた通り非常に興味深いお店で、楽しめました。ポストカードとフレームを買い求めました。
 訪ねたことを拙ブログに書きまして、その際、ブログタイトルも拝借いたしました。
 私は大阪の郊外に住んで居りまして、最近では神戸へ行くこともなかなありませんし、また、神戸のこと、足穂の事も、好きだと言っている割にはあまり存じておりませんで、この海洋気象台の望遠鏡のことなどは、はじめてこちらで教えていただきました。
 今後もまた、楽しみにさせていただきます。本日はタイトル拝借のご報告まで。

_ 玉青 ― 2010年03月08日 22時11分14秒

たのけのあむら様

はじめまして。希少な(笑)アサブロのお仲間ですね。

ランスに行かれましたか!
私はランス訪問の際、店舗内の写真を撮らせてほしいと言い出せなかったのをちょっと後悔していたのですが、お書きになった記事を拝見して、あの日のことが鮮明に蘇ってきました(4番目の写真、右端に軟骨魚類の掛図がまだ売れずに残っているのが見えますね)。

拙ブログは、コメントを頂戴する方が若干東に偏っているようなので、関西の方にお立ち寄りいただき、実に嬉しく思います。今後も情報やコメントを、どうぞよろしくお願いいたします。特に大阪方面に不思議なお店がありましたら、是非に。<(_ _)>

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