『天体議会』のモデルの地をたどる…コスモドローム、そして鉱石倶楽部へ2010年02月27日 17時36分49秒

神戸小旅行からひと月近く経ちますが、いまだ脳内(と当ブログ)は、神戸に滞在しっぱなしです。ずいぶんコストパフォーマンスのいい旅ですね。

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さて、青少年科学館をあとにして、ここからまた『天体議会』の世界に沈潜していきます。

せっかくポートアイランドまで来たので、ついでにさらに南の人工島を目指しました。
『天体議会』の世界に入り込んで眺めれば、ここは港の沖合に浮かぶ人工天体発射場(コスモドローム)と重なります。コスモドロームから飛び立つロケットを、主人公の少年たちは「ジェラルミンの天使」と呼び、その発射はちょっとした見ものとなっています。

「日没後のことなので、ロケットのジェラルミンの煌きを
見ることはできないが、噴き出す焔は夜天〔そら〕を彩り、
季節はずれの花火を眺めるような楽しさがあった。湧き
あがる歓声と興奮。」

現実のポートライナーは、雨の中、一路南へ向います。
かなたにコスモドロームならぬマリンエア(神戸空港)が見えてきました。


しばらく駅に佇んで、私も<ジェラルミンの天使>が昇降する姿を眺めようと思ったのですが、離着陸する機影はなく、地方空港の経営はかなり大変そうでした(ここを利用するのは、1時間に1~2便だそうです)。

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再びポートライナーに乗って市街地にとって返し、さらに『天体議会』の気分で街を歩いてみます。目指すのは、主人公たちのたまり場、「鉱石倶楽部」。

(三宮駅南交差点。突当たりが臨港エリア)

「鉱石倶楽部はもちろん中央駅〔セントラル〕の西側だ。
まず駅前の大通りを渡り、直進して円形路〔ドーナツ〕へ出る。
(…)銅貨と水蓮は信号機〔シグナル〕が変わるのを待って
円形路を渡った。そのあたりは間近に港があり、積み出された
重油や穀類を運ぶ貨物が、始終あたりを震動させているような
ところだった。」

その途中、人口管理をはじめ、あらゆる行政機能を一元的につかさどっている連盟(ユニオン)の建物がありました。


この『天体議会』の世界は、いくつかの連盟― 作中には「第三連盟〔ユニオン〕」という表現が出てきます ―によって統括されており、それぞれの連盟の下に多くの都市(シテ)があります。

「鉱石倶楽部のある古びた一角を通って、この遊覧船の発着
広場へ歩いてきた銅貨と水蓮は、まず高々と聳〔そび〕える
地上二百階の楕円柱状の建築〔ビル〕を見あげた。そこには
連盟〔ユニオン〕の支部や会議場があった。まだ大半の窓に
燈を点して、夜天〔そら〕の暗さに映えて光っている。しかし、
何千、何万という人がいるはずの建物にしては空虚な感じだ。」

現実世界での呼び名は<神戸市役所>。
休日なので、文字通り空虚な感じです。

付近には、さらに主人公・銅貨とその兄が住む集合住宅(ジードルング)も立っています。


「彼らの家は超高層の集合住宅〔ジードルング〕にある。
まったく同じ外容〔かたち〕をした建物〔ビル〕を二つ巴に
向い合わせ、まんなかにできたS字形の空間は吹き抜けの
回廊園〔アトリウム〕になっている。しかし外側から見れば、
円柱形をしたひとつの建物〔ビル〕である。地上七十五階。
地下には水路があり、港へ続く運河と通じていた。」

まだ新しいマンションのようで、よく見ると分譲案内らしい垂れ幕が下がっています。
高層階に住む気分というのは、どんなものなんでしょう?怖くはないんでしょうか?

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こうした近未来的な描写の中で、「鉱石倶楽部」は、異様に古めかしいイメージで描かれています。そして、これこそが作者・長野まゆみ氏の美意識が凝結した空間であり、私自身追い求めてやまぬトポスなのです。

(この項つづく。-いよいよ明日は神戸旅行の完結編です-)