タルホの匣…第7夜、スターシガレット2010年04月09日 21時10分54秒

足穂に「星と蝙蝠」という小品があります。
(大正14年に「日の出前」として発表した作品を、昭和5年に改稿)

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ある明け方、「私」が横丁を通りかかると、そこにひと騒動持ち上がっています。
タキシードを着たひょろ長い紳士の一群が、仲間の一人にさんざん乱暴をしているのです。
わけを聞くと「俺たちはな、星なのだ、今帰ろうとするところさ、ところがこいつ蝙蝠のくせをしやがって一しょにまぎれて天へ入り込もうとしたのだ、図々しいってありゃしない」。
「私」は家に帰って、星と蝙蝠の意味を考えながら、ポケットからスター(タバコの銘柄)の箱を取り出すと、中の1本がクシャクシャに折れています。「オヤと思って調べてみたところ、果してそれはスターのなかにまじってゐるゴールデンバットでございました。」

…という他愛ない内容のもの。
どうやら煙草界にも序列があって、星の方が金蝙蝠より偉いらしい。

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「スター」はゴールデンバットと同じく、専売公社が手がけた日本の銘柄です。
で、この日本の「スター」には、また別のところで登場願うとして、ここではイギリス煙草の「スターシガレット」を取り上げます。ただし、単純にシガレット続きだとつまらないので、匣には「スターシガレット」ブランドのドミノ牌を入れることにしました。


黒地に緋色の浮き文字。裏返せば白い賽の目。


長さ約4.7センチと、ごく小さなものですが、ピリリと心憎い品。
(写真には写ってませんが、牌全体を収めた赤いブリキ缶も洒落ています。)
1930年代頃のものと言われます。

この品は、特に足穂作品に由来するものではありません。
でも、「タルホ的なるもの」のエッセンスというか、彼のダンディズムを一層鮮明に表現しているように感じました。
(いや、むしろクシー君的かもしれません。)

コメント

_ S.U ― 2010年04月10日 17時26分31秒

 おぉ、いいですね。このドミノは何で出来ていますか? 
 木製ですか。それとももっと特殊な素材ですか?

 かつて、私は木製のものが欲しくて捜したことがあります。新品はなかなか見つからず、あきらめた頃に出張の時にミラノ空港の売店でたまたま見つけ、喜んで購入しました。

_ 玉青 ― 2010年04月10日 21時05分35秒

どうです、いいでしょう?
素材はベークライト、あるいはそれに類する合成樹脂のようです。かなり硬質で、打ち合わせるとキンキン高い音がしますが、粘りがないぶん脆くて、画像に写っているのもそうですが、大抵の牌に縁の「欠け」が見られます。
(ちなみに、このドミノセットは当時かなり大量に作られたらしく、ネットオークションにはしょっちゅう出てきますし、値段も高いものではありません。)

(もう1つのコメントも、ありがとうございました。戦後の足穂をめぐる話題は、私自身がもう少し当時の知識を得てから、後続記事を書こうと思います。しばしペンディングです。)

_ S.U ― 2010年04月11日 08時11分11秒

玉青様、そうですか。1930年代当時に合成樹脂が使われていたのですね。あまり「欠け」てはゲームに差し障るでしょうから、まだ技術的に成熟していないということはあったのでしょうが、当時は上等の先端技術品に思われたでしょう(似たような話を前にも書きました)。

 足穂については、またどこかでまとめていただければありがたいです。私も彼の「天文普及活動」についてぼちぼちあたってみたいと思っています。

_ 玉青 ― 2010年04月12日 20時38分51秒

今ウィキペディアを見たら、非石油系プラスチックは、けっこう歴史があるみたいですね。「19世紀化学の勝利」として、同時代の人はきっと誇らしく思ったことでしょう(ベークライトは、20世紀初頭ですが)。

足穂の件、くれぐれもよろしくお願い申し上げます。

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