女性と蝶とコレクター ― 2010年04月27日 19時28分54秒
(↑W. S. Coleman, BRITISH BUTTERFLIES, 1895)
メジャーなのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、「スチームパンク大百科」というサイトがあります(http://steampunk.seesaa.net/)。
冒頭にあるサイトの自己紹介文を引用させていただくと、
「レトロフューチャーな世界を夢見る管理人・麻理による書斎改造計画の記録です。スチームパンクに限らず、19世紀末のヴィクトリア時代・江戸末期・明治・大正期の風物、グッズの紹介、コラムなど。懐かしい未来へご一緒しましょう!」
という趣向。
スチームパンカーの中には、やたらとトゲトゲしい、異様な造形を好む人もいるようですが、上記サイトは、そうした狭義のスチームパンク趣味を越えて、より広く19世紀の文物を、歴史的な考証を踏まえつつ物語る内容になっています。その話題の中心が、古風なテクノロジーと装飾的なデザインをまとった理系文物であったり、重厚な書斎空間であったりするというわけで、僭越ながらこの拙ブログと興味関心の対象が重なっているなあ…と感じたのでした。
★
その最新の記事が“永遠の理科少年少女たちの「蝶の標本」”
(http://steampunk.seesaa.net/article/147622337.html)。
管理人である麻理さんの蝶コレクションについての話や、高校の生物部時代の思い出、さらに、児童向けの学習図鑑が1980年代後半に観察から飼育重視に方針転換したらしいという話題など、とても興味をそそられる内容でした。蝶によって装飾された、美しいお部屋の写真に目が行ったのは言うまでもありません。
★
さて、ここからちょっと話が脱線します。
そんな麻理さんにして、「最初におことわりしておくと、私は蝶にはあまり詳しくなく、それほど思い入れがありません」と書かれているのを目にして、私はその点にも強い興味を覚えたのでした。
これは古くからの話題で、要するに「女性は真のコレクターとなりうるか」という設問に関わるものです。意見の分かれるところでしょうが、たとえば代表的「虫屋」である奥本大三郎氏の意見ははっきりしていて、
「『蒐集』という言葉は、女には解らないものの一つである」と断言しています。「女は宝石を集めたがるが、もし宝石からシンボリックな力や経済的な実力をとり去ってしまったら、大半の女は集めたものを子供にやってしまうだろう。―男の児に。」 (「芋虫、毛虫、挟んで捨てろ」、『虫の宇宙誌』所収)
そして、「日本鱗翅学界の会員二千人の中、女性会員の数は両手両足の指の数に満たない。…まさに暁天の星の如し、寥々たるものである」という事実を挙げ、「蝶の女流研究者と言うものは殆ど見たことも聞いたこともない」という昆虫学者・江崎悌三の随筆を援用しています。
ただし、(奥本説にしたがえば)女性に蝶マニアの心理が分からないのと同様、奥本氏には、蝶マニアの心を解さぬ女性の心理がさっぱり分からぬらしく、「女性…の不可解さは、肉体的な面よりも精神的な面においてより深いであろう」と、半ば匙を投げています。 (「雄と雌とその間」、上掲書所収)
★
女性にはコレクターが少ない―皆無ではないと思います―という事実は、文化によって規定された性役割(ジェンダー)によっても、一部は説明がつくでしょうが、どうもそれだけでもなさそうです。事物への強いこだわりは、自閉症スペクトラムの主症状で、自閉症スペクトラムの発生頻度は明らかに男性の方が高いことからも、「コレクター傾性」ないし「オタク傾性」の背後に、何か生物学的要因があることは確かだと思います。
★
オタク文化に詳しい著述家の竹熊健太郎氏は、男性のコレクターに特有の性質として「コンプリートへの情熱」を挙げています。コレクションの欠落を埋めるためだけに、特に好きでもないモノまで手に入れようと血眼になるのは、女性のコレクターには見られない特徴だという指摘です。男性コレクターにとって、コレクションの完成は1つの宇宙を完成することに等しく、男性がコンプリートにこだわるのは、女性と違って自ら生命を生み出すことができないことを補償するためではないか…と、竹熊氏は述べています。
■たけくまメモ:コレクター考(9)男のコレクション、女のコレクション
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_6743.html
★
竹熊氏の仮説の当否はさておき、男性コレクターの特質はコンプリート欲求だという指摘には頷けるものがあります。
私なりに考えると、「女性のコレクターにとって重要なのはモノそのものだが、男性のコレクターが追求しているのは、モノの集積によって形作られる秩序なのだ」と思います。じゃあ、モノはなくてもいいのかというと、そんなことはなくて、モノはやはり不可欠なんですが、そこで重要なのは、リアルなモノが発する一種の「呪力」、「磁場」であって、コンプリートすると、それらが共振して壮大な世界が現出するというファンタジーを男性は抱いているんじゃないでしょうか。(要はドラゴンボールみたいなものですね。)
メジャーなのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、「スチームパンク大百科」というサイトがあります(http://steampunk.seesaa.net/)。
冒頭にあるサイトの自己紹介文を引用させていただくと、
「レトロフューチャーな世界を夢見る管理人・麻理による書斎改造計画の記録です。スチームパンクに限らず、19世紀末のヴィクトリア時代・江戸末期・明治・大正期の風物、グッズの紹介、コラムなど。懐かしい未来へご一緒しましょう!」
という趣向。
スチームパンカーの中には、やたらとトゲトゲしい、異様な造形を好む人もいるようですが、上記サイトは、そうした狭義のスチームパンク趣味を越えて、より広く19世紀の文物を、歴史的な考証を踏まえつつ物語る内容になっています。その話題の中心が、古風なテクノロジーと装飾的なデザインをまとった理系文物であったり、重厚な書斎空間であったりするというわけで、僭越ながらこの拙ブログと興味関心の対象が重なっているなあ…と感じたのでした。
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その最新の記事が“永遠の理科少年少女たちの「蝶の標本」”
(http://steampunk.seesaa.net/article/147622337.html)。
管理人である麻理さんの蝶コレクションについての話や、高校の生物部時代の思い出、さらに、児童向けの学習図鑑が1980年代後半に観察から飼育重視に方針転換したらしいという話題など、とても興味をそそられる内容でした。蝶によって装飾された、美しいお部屋の写真に目が行ったのは言うまでもありません。
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さて、ここからちょっと話が脱線します。
そんな麻理さんにして、「最初におことわりしておくと、私は蝶にはあまり詳しくなく、それほど思い入れがありません」と書かれているのを目にして、私はその点にも強い興味を覚えたのでした。
これは古くからの話題で、要するに「女性は真のコレクターとなりうるか」という設問に関わるものです。意見の分かれるところでしょうが、たとえば代表的「虫屋」である奥本大三郎氏の意見ははっきりしていて、
「『蒐集』という言葉は、女には解らないものの一つである」と断言しています。「女は宝石を集めたがるが、もし宝石からシンボリックな力や経済的な実力をとり去ってしまったら、大半の女は集めたものを子供にやってしまうだろう。―男の児に。」 (「芋虫、毛虫、挟んで捨てろ」、『虫の宇宙誌』所収)
そして、「日本鱗翅学界の会員二千人の中、女性会員の数は両手両足の指の数に満たない。…まさに暁天の星の如し、寥々たるものである」という事実を挙げ、「蝶の女流研究者と言うものは殆ど見たことも聞いたこともない」という昆虫学者・江崎悌三の随筆を援用しています。
ただし、(奥本説にしたがえば)女性に蝶マニアの心理が分からないのと同様、奥本氏には、蝶マニアの心を解さぬ女性の心理がさっぱり分からぬらしく、「女性…の不可解さは、肉体的な面よりも精神的な面においてより深いであろう」と、半ば匙を投げています。 (「雄と雌とその間」、上掲書所収)
★
女性にはコレクターが少ない―皆無ではないと思います―という事実は、文化によって規定された性役割(ジェンダー)によっても、一部は説明がつくでしょうが、どうもそれだけでもなさそうです。事物への強いこだわりは、自閉症スペクトラムの主症状で、自閉症スペクトラムの発生頻度は明らかに男性の方が高いことからも、「コレクター傾性」ないし「オタク傾性」の背後に、何か生物学的要因があることは確かだと思います。
★
オタク文化に詳しい著述家の竹熊健太郎氏は、男性のコレクターに特有の性質として「コンプリートへの情熱」を挙げています。コレクションの欠落を埋めるためだけに、特に好きでもないモノまで手に入れようと血眼になるのは、女性のコレクターには見られない特徴だという指摘です。男性コレクターにとって、コレクションの完成は1つの宇宙を完成することに等しく、男性がコンプリートにこだわるのは、女性と違って自ら生命を生み出すことができないことを補償するためではないか…と、竹熊氏は述べています。
■たけくまメモ:コレクター考(9)男のコレクション、女のコレクション
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_6743.html
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竹熊氏の仮説の当否はさておき、男性コレクターの特質はコンプリート欲求だという指摘には頷けるものがあります。
私なりに考えると、「女性のコレクターにとって重要なのはモノそのものだが、男性のコレクターが追求しているのは、モノの集積によって形作られる秩序なのだ」と思います。じゃあ、モノはなくてもいいのかというと、そんなことはなくて、モノはやはり不可欠なんですが、そこで重要なのは、リアルなモノが発する一種の「呪力」、「磁場」であって、コンプリートすると、それらが共振して壮大な世界が現出するというファンタジーを男性は抱いているんじゃないでしょうか。(要はドラゴンボールみたいなものですね。)
コメント
_ 麻理 ― 2010年04月27日 21時53分33秒
_ 玉青 ― 2010年04月28日 20時22分07秒
○麻理さま
これはこれは、遠路足をお運びいただき恐縮です。
ご覧の通り取り散らかしておりますが、多少なりとも麻理さんの共感を得る記事があったとすれば、たいへん光栄に思います。
また拙ブログを貴サイトにてご紹介いただける由。まことにありがとうございます。
拙ブログの内容はともかくとして、それが理科室趣味振興(←大袈裟)の一助となるならば大いに結構なことですので、何分よろしくお願いいたします。
キャプチャもどうぞご自由にお使いください。
「スチームパンク大百科」がこれからも長く続きますように!そのことを一読者として強く願っております。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。<(_ _)>
これはこれは、遠路足をお運びいただき恐縮です。
ご覧の通り取り散らかしておりますが、多少なりとも麻理さんの共感を得る記事があったとすれば、たいへん光栄に思います。
また拙ブログを貴サイトにてご紹介いただける由。まことにありがとうございます。
拙ブログの内容はともかくとして、それが理科室趣味振興(←大袈裟)の一助となるならば大いに結構なことですので、何分よろしくお願いいたします。
キャプチャもどうぞご自由にお使いください。
「スチームパンク大百科」がこれからも長く続きますように!そのことを一読者として強く願っております。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。<(_ _)>
_ 麻理 ― 2010年04月28日 21時35分06秒
玉青様
快諾いただきましとても嬉しいです。
すでにご存知の方も多いとは思いますが
ぜひぜひご紹介させてください。
今週金曜日にアップの予定です。
トップページのキャプチャも許可いただきまして
重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございます☆
こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いいたします♪
快諾いただきましとても嬉しいです。
すでにご存知の方も多いとは思いますが
ぜひぜひご紹介させてください。
今週金曜日にアップの予定です。
トップページのキャプチャも許可いただきまして
重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございます☆
こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いいたします♪
_ たつき ― 2012年01月24日 21時10分07秒
玉青様
スチームパンクの方の下に私ごときがコメントするのはおこがましいですが、やっぱり反論です。
というか、やっぱりわたくしって女ではありませんのね、って感じです。
でも、私は上記の女性と男性のコレクターの違いというのは、やはり性差というより個人差だと思ってしまいます。
私はなにかに夢中になると、完全制覇しないと気が済まないです。例えば一人の作家を好きになると、まず全作品を読み、本に未収録のものは雑誌を探し出し、少しでも関係する新聞記事・雑誌の記事、本人のサイン、映像、というありとあらゆるものを集めます。お墓参りは当然ですね。いろんな人の墓との写真がたくさんあります。
いまはパソコンでかなり助かりますが、10代の前半の頃はそんなものはまだなくて、すべて自分の足を使わないと手に入らなかったので、ものすごく苦労しました。子供でしたから、蒐集の方法もしらなかったですし。
それと、概して女というものはとか、男というものは、という言い方をすると、いかにも「私は女(あるいは男)というものをよく知っている」と思われるので、わざと使う人という人もいるようです。
相変わらずおかしな奴が書き込みしていますが、このしつこさが蒐集家の特徴だと思います。
以上、失礼いたしました。
スチームパンクの方の下に私ごときがコメントするのはおこがましいですが、やっぱり反論です。
というか、やっぱりわたくしって女ではありませんのね、って感じです。
でも、私は上記の女性と男性のコレクターの違いというのは、やはり性差というより個人差だと思ってしまいます。
私はなにかに夢中になると、完全制覇しないと気が済まないです。例えば一人の作家を好きになると、まず全作品を読み、本に未収録のものは雑誌を探し出し、少しでも関係する新聞記事・雑誌の記事、本人のサイン、映像、というありとあらゆるものを集めます。お墓参りは当然ですね。いろんな人の墓との写真がたくさんあります。
いまはパソコンでかなり助かりますが、10代の前半の頃はそんなものはまだなくて、すべて自分の足を使わないと手に入らなかったので、ものすごく苦労しました。子供でしたから、蒐集の方法もしらなかったですし。
それと、概して女というものはとか、男というものは、という言い方をすると、いかにも「私は女(あるいは男)というものをよく知っている」と思われるので、わざと使う人という人もいるようです。
相変わらずおかしな奴が書き込みしていますが、このしつこさが蒐集家の特徴だと思います。
以上、失礼いたしました。
_ 玉青 ― 2012年01月25日 21時07分39秒
たつきさんの例は、竹熊説への有効な反例として機能しますね。
私も大いに蒙を啓かれた思いです。
私も大いに蒙を啓かれた思いです。
コメントをどうぞ
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はじめまして! スチームパンク大百科管理人の麻理と申します。
トラックバック、記事でのご紹介ありがとうございました☆
ブログを拝見して、理科趣味、書斎へのこだわりなど、本当に「興味関心の対象が重なっているなあ」とのお言葉、全く私も同感であります。男性、女性のコレクターに関する考察もなるほどと思い当たることがありました。
どの記事も思わず「わあ!」「ほぅ(ため息)」と声がでてしまうほど興味津々です。残念ながら私の周りにはこういった趣味を解する方が全くいないのですが、ネットを通して理科趣味の先輩方にお会いできるのは大変ありがたいことだと思っています。
コメント欄でおききするのも失礼かとは思いますが、ぜひ拙ブログで玉青様の「天文古玩」をご紹介させていただけないでしょうか。できればトップページのキャプチャ(450×340ほどの大きさです)を許可していただけると大変助かります。もちろん「紹介はちょっと……」という場合はその旨お教えくださいませ。
長くなり申し訳ありません。この度はありがとうございました。