永遠に有効2010年05月19日 20時27分43秒


存在しない日付。
消えた出版社。
この葉書を投函すれば、
幻影の愛読者になれる。

  ★

古本の中から出てきた愛読者カードに一瞬たじろぎました。
いい本をたくさん出していたリブロポート。1998年没。今年は十三回忌。

コメント

_ 麻理 ― 2010年05月19日 20時54分14秒

懐かしい! もうそんな年月が経ったんですね……。
トレヴィルなどリブロポートは
本当に良い美術本を出版していましたね。
あらかたの本はScanSnapで電子化してしまいましたが
リブロポートの本はそのまま持っているものが多いです。

_ S.U ― 2010年05月19日 22時19分16秒

 リブロポートがどうだったかは存じませんが、
 売れない本を出す出版社は良い出版社です。
 売れない食品を出す食品会社、売れないパソコンを出すパソコン会社はあまり良いとは思えませんが、売れない本を出す出版社はどう考えても良い出版社だというのはどうにも不思議です。

_ 玉青 ― 2010年05月20日 20時23分33秒

○麻理さま

そう、月日はいつのまにか過ぎ去り、リブロポートもトレヴィルも、今や人々の記憶の中に生き残るのみです。彼らの生み出した子どもたちが、新刊書店の棚に光を放って並んでいた光景が、こんなにありありと思い浮かぶというのに。

○S.Uさま

おお、正鵠を射たご指摘。たぶん出版社の場合は、売れないことが最初から予想がつくのに、「それでも出す」という悲壮な決意が貴いのかもしれませんね。その意気やよし、大いに意気に感ず、という次第です。

* * * *

ところで、リブロポートが商売をたたんだ時の新聞記事を見つけました(読売新聞、1998年8月15日夕刊)。最後の1文など、本当にズシッときます。


「リブロポート、トレヴィル、ペヨトル工房 美術書出版3社が活動停止」
「80年代アートに一石 バブル崩壊で苦境に」

「美術書を中心に意欲的な出版活動を行ってきた3出版社が、相次いで活動を停止した。リブロポート(東京都豊島区)、トレヴィル(同渋谷区)、ペヨトル工房(同台東区)の3社だ。出版不況の中、コストのかかる美術書はとくに厳しい状況に追い込まれているが、この3社はある意味で、80年代アート文化をリードしてきた存在だけに、消滅を惜しむ声は多い。

 『ワイエス画集』や『エゴン・シーレ画集』など、質の高い美術書を出してきたリブロポートが、出版事業からの撤退を取次各社などに通知したのは6月30日。今後はリース会社として存続するという。また、H・R・ギーガーの画集などを出してきたトレヴィルも、同日付で法人を解散、清算業務に入っている。両社とも現在、書店から在庫を回収中だ。

 リブロポートは79年、トレヴィルは85年の設立。いずれも西武セゾングループ系の出版社として、美術・人文書主体の出版活動を行ってきた。西武百貨店池袋店内にあった美術洋書専門店「アール・ヴィヴァン」(96年に閉店)とともに、80年代の“セゾン系アート文化”の一翼を担う存在だった。

 トレヴィルの代表清算人も兼務する千本木正夫・リブロポート取締役は、「80年代半ばから90年くらいまでは、印象派を中心に高価な美術書もよく動いたが、バブル崩壊以後はとにかく売れなくなった。美術ファンに『惜しい』と言われるのは承知だが、ビジネスとして成り立たないのでは仕方ない」と語る。

 リブロポートの美術書で最も売れたワイエス画集でさえ、4冊で計2万5千部。海外版権の画集の場合、販売する度に印税がかかるので、回収した本はほとんど断裁せざるを得ないという。

 一方、やはり80年代のアート系サブカルチャーで異彩を放ったペヨトル工房も、このほど出版活動休止を宣言。アール・ヴィヴァンの後身「アートショップ・ナディッフ」(渋谷区神宮前4の9の8、電03・3403・8814)で「ペヨトル・メモリアル」と題したブックフェアとイベントを23日まで開催中だ。

 同社は80年設立で、ハンス・ベルメールなどを特集した『夜想』や『WAVE』などのサブカルチャー誌を刊行するほか、展覧会やダンス公演のプロデュースなど、出版にとどまらない先鋭的・多角的な活動を展開してきた。

 同社は解散するわけでなく、年内にまだ出版計画もあるというが、「メーンカルチャーとサブカルチャーの境目がなくなり、サブカルが活性化しにくい時代になった。本から文化を仕掛けることが難しくなっている。一度『死んだふり』をして、考え直そうということです」と、設立者の一人ミルキィ・イソベさん。今後はインターネットの利用など、本の形態を超えた活動を模索するという。

 3社の活動停止の背景には、セゾン美術館の閉館決定など、これまで「文化のパトロン」的存在だったセゾングループの文化事業見直しの影響があることは否めない。しかしそれとは別に「20世紀アートという分野の、象徴的な終わりを感じる」と語るのは、かつてアール・ヴィヴァン設立にもかかわった芦野公昭・ナディッフ社長だ。「今世紀前半の西欧モダニズムの感性を日本に根付かせる仕事は、一応歴史的役割を終えたのかもしれない」

 かといって、日本のアート出版文化がこのまま先細りになるのは寂しい。本も、文化も、一度失われたものはなかなか手に入りにくいものだ。その時に焦っても遅いのだが…。」

_ 日本文化昆虫学研究所 ― 2010年05月20日 21時14分42秒

 これは,ある意味で大変貴重なはがきですね.リブロポートについては,はずかしながらほとんど何も知らないのですが,差出有効期限が昭和65年とは・・・.

_ 玉青 ― 2010年05月21日 19時29分22秒

見た瞬間、「……」という間がありますよね。
脳が状況を理解するまで、ほんの一瞬身体がフワッと浮くような。
(でも、この世界のすぐ近くに、昭和がまだ続いているパラレルワールドもあるかもしれません。)

_ タクミ ― 2010年08月12日 00時35分24秒

ワイエスの画集を探して検索していましたら、偶然にもこんな魅惑的なブログに出逢えました。
専らROMで申し訳なく思いますが、日々ひと時の憩いの場にさせて頂いてます。
ご自愛下さいね…今後も愉しみにしております。

_ 玉青 ― 2010年08月12日 22時47分11秒

○タクミさま

おお、意外なところからお立ち寄りいただきましたね。
ワイエス画集は、私自身は持っていませんが、よく覚えています。
あれはリブロポートの出版目録の、いつも目立つ所に載っていたような印象があります。

このブログは、ワイエスの世界とはちょっと距離がありますが、これもまた何かのご縁でしょう。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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