銀河のガラス模型…キュービック編(2)2010年06月16日 20時39分25秒



まずは、日本のリビングワールド社製の模型から見ていきます。
これは商品名を「太陽系のそと Beyond our solar system」といいます。


キューブの中心と銀河系の中心がずれているのは、キューブの中心に太陽系が来るよう作られているからです。一事が万事この調子で、作り手のこだわりが随所に感じられます。

この「太陽系のそと」には、12センチ角と7センチ角の大小2つのバージョンがあって、わが家のものは小さいサイズです。

同社からは最初に「大」が出たのですが、お値段はなんと84,000円。これは別に「ぼって」いるわけではなくて、素材も加工技術も一定の水準をクリアすると、自ずとそれぐらいになってしまうのだそうです。
しかし、さすがに誰でも買えるという値段ではないので、もっと多くの人に手にとってもらいたい…という願いを込めて、画像の精細度を多少犠牲にしたエコノミー版の「小」が、後から発売されました。こちらは15,750円というお値打ち価格。

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この品は購入順から言うと、いちばん新しく届いた品です。それを最初に取り上げる理由は、「銀河系モデル」というものの性格を説明するのに、最も相応しいと思うからです。付属のパンフレットには、その辺の事情がこう書かれています。


「私たちの銀河系を、こんなふうに外から見たことがある人間は、
まだ一人もいません。地球も以前はそうでした。
その姿を外から俯瞰的に見た人は、一人もいなかった。
〔…〕にも関わらず、世界地図はその何百年も前から存在している。
探索と測量と想像力で描かれた、情報と経験の集積。

〔…〕じつは銀河系の3Dデータも、大航海時代の世界地図と同じ
状況なのだそうです。すべてを知っている人はいない。銀河の
中心部を隠すガスの雲の向こう側は、電波望遠鏡などをつかっても、
まだ十分に捉えきれません。
最新の観測装置で捉えられる限りの恒星データと、コンピュータを
駆使した理論計算。そして、想像力で足りない部分を補いながら、
世界各地の研究者が銀河系の地図を描き、たがいに見比べている。
人類は宇宙について、そんな時代を生きている。」

大航海時代の世界地図と同じ状況―。分かりやすい比喩ですね。
モデルによって差がある理由は、現代の宇宙科学自体の制約に由来するわけです。

人類が宇宙の大航海に出発し、文字通りその目で銀河を俯瞰する日がくるかどうかは分かりませんが、理論と観測手段と計算能力の進歩によって、今後もさらに正確な地図が作られ続けることは間違いないでしょう。そうなると、こうした銀河模型は、昔の奇妙に歪んだ世界地図のように、アンティークムードを感じさせる品になるのかもしれません。

(とはいえ、現在の私たちは、仮に未来の「より正確な銀河地図」を見せられても、「え、どこが違うの?」という感じで、あまり差を感じないかもしれません。いっぽう未来の人は、現代の地図の歪みを鋭敏に感じ取ることでしょう。認識能力の向上とはそういうものだと思います。)

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この模型は、「国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2U)」のデータを元にしています。


「4D2Uの銀河系データは、小久保英一郎さん(国立天文台)と加藤恒彦さん(現大阪大学)が、理論シミュレーションの最新成果をもとにつくりだしたもの。世界でも、現時点でもっとも良質な銀河系のデータの一つとして認められているそうです。」
(上記付属パンフレットより)

補足すると、より直接的には、4D2Uのサブプロジェクト、「4次元デジタル宇宙ビューワー"Mitaka"(ミタカ)」で使われた銀河モデルを実体化したもの。Mitakaはフリーウェア(太っ腹!)なので、こちらもぜひダウンロードの上、ご覧ください(http://4d2u.nao.ac.jp/t/var/download/)。

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上に引用させていただいた内容を含め、製品についての解説や、商品開発の舞台裏は、リビングワールド社のサイトに詳細な記述があります。

■リビングワールド(トップページ)http://www.livingworld.net/
  □太陽系のそと(大サイズ版)http://www.livingworld.net/works/galaxy/
  □同(小サイズ版)http://www.livingworld.net/works/galaxy-mini/

コメント

_ S.U ― 2010年06月17日 19時44分14秒

銀河系がM31アンドロメダ銀河やM101回転花火銀河のような形をしているだろう、と推測することは容易いし賢治の時代から行われていたことと思いますが、私の記憶では、わが銀河系の具体的な腕構造がわかってきたのは、もっとあとの時代(1960年代以降?)ではなかったかと思います。観測に基づいた銀河系の形を初めて見て子供心に感動をしたことを覚えています。

 ですから、20世紀の前半には、銀河系の形 というのは完全な想像図であったはずで、それを絵に描いて載せる際には何か「うしろめたさ」というようなものがあったのではないかと想像します。描く人の自信という点では現代とは全く違うと思います。

20世紀中盤に出た山本一清と野尻抱影のそれぞれの「天体と宇宙」の銀河系図を見てみましたが、抱影のそれには腕は描かれておらずベターとしたレンズ状になっていました。また一清の著にいたっては、図はハーシェルのものしか載っていませんでした。当時としてはこれが科学的に慎重な立場ではなかったかと思います。

_ 玉青 ― 2010年06月17日 20時53分36秒

手元の事典(『平凡社版 天文の事典』)によれば、銀河円盤部の明るい星(O型星、B型星)の配列から、3本の腕(オリオンの腕、ペルセウスの腕、いての腕)が発見されたのが1951年。さらに電波望遠鏡による観測から銀河系全体の渦巻き構造が判明したのが1950年代後半のことだそうです。おっしゃるとおり20世紀前半にあっては、渦を巻いた銀河模式図は、完全な想像図だったわけですね。

それを思うと、この半世紀余りの人類の視野の拡大は実に感動的です。
実際にはまだ月までしか行ったことがないくせに、意識の面では、広大な銀河系全体が、つい庭先のように感じられたりする折もあるんですから…。

(付記:歴史的には、渦状腕構造の具体的モデルの濫觴は、1900年代初頭のコルネリス・イーストンという人物あたりまでさかのぼるようです。ただしこれはかなりの憶測を交えた試論のようです。)

_ とこ ― 2010年06月18日 22時30分24秒

おおー!ちょうどMitakaをインストールしようとしていた矢先にこの記事!
(わたしははやぶさの軌道が知りたくてインストールを試みています)

次の記事も読ませていただきました。
隅から隅までこだわりの行き渡った素敵な品ですね。

_ 玉青 ― 2010年06月19日 19時12分56秒

はやぶさ周辺では不思議な偶然が起きる。
その効果は、依然健在のようですね。
とこさんは、暑い夏をいよいよ熱くお過ごしのようですが、
せめてMitakaでクールな画像をお楽しみくださいまし。

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