鉱物、幻想、文学の系譜2010年08月31日 21時00分30秒

昨日の青い本。「気になる中身については、また次回」とか、適当なことを書きましたが、実はまだこの本は未読です。パラパラ眺めて、印象記風に書けばよいかとも思いましたが、300ページを超す本なので、そう簡単に読めるはずもなく、ちょっと後に回すことにします。

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最近、目にしたニュースから。

先日、京王線の新宿駅で事故死された、行動理論の大家、佐藤方哉氏。
氏が作家・佐藤春夫のご長男であり、その母上が元・谷崎潤一郎夫人で、騒然たる文壇ゴシップとともに佐藤春夫に嫁した千代夫人だということは、今回の一連の報道で初めて知りました。

そのことをネットで漫然と読んでいたら、佐藤春夫と谷崎潤一郎、そして千代夫人にかかわる人物として、幻想・推理作家の大坪砂男(1904-1965)の名前が出てきて、おや?と思いました。これまたゴシップに類する話なので、その件についてはウィキペディアの大坪砂男の項に譲ります(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%9D%AA%E7%A0%82%E7%94%B7)。

私自身は、大坪の作品は、何かのアンソロジーで「零人」(愛する女性を人柱にして、完璧な美花を創出する園芸家の狂気と自己像幻視を描いた話)というのを読んだぐらいで、彼の個人的なことは全く知らなかったのですが、大坪砂男の本名が和田六郎で、和田維四郎の息子だと書かれているのをネットで見て、大いに驚きました。

和田維四郎(わだつなしろう;1856-1920)は日本鉱物学の父。
東大ではお雇い外国人のナウマンと組み、その後、地質調査所長や鉱山局長、官営八幡製鉄所長官等を歴任した人。現在、三菱マテリアルが所蔵する「和田コレクション」は、日本を代表する鉱物コレクションの1つとして知られます(東京大学コレクションXI:和田鉱物標本 http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/2001Wada/)。

大坪は佐藤春夫に師事したこともあるので、同じく春夫の弟子だった稲垣足穂とは、いわば兄弟弟子の関係になります。もちろん現実の人間関係は複雑なので、この3人が「仲良し3人組」というわけでは全くありませんが、ただ鉱物、唯美主義、幻想といったタームが、この3人をゆるく束ねているような気がします。

鉱物のおもてに仄浮かぶ幻想性が、大坪という作家の誕生に、なにがしかの役割を果たしたのかどうか。和田父子の実像とともに、ちょっと気になりました。