明治日本のアマチュア天文家…前原寅吉翁のこと(1)2010年12月28日 06時06分42秒

さて、そういう純粋のアマチュアの人たちは、どういう素性の人で、どこでどういう活動をしていたのでしょうか。まだまだ調べないと分からないことだらけですが、ここで1人の人物に注目したいと思います。

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その前に、ここで再び『ビクトリア時代のアマチュア天文家』のことを持ち出しますが、あの本で私が最も心を奪われたのは、貧しい労働者階級の天文家たちの生き様でした。純粋に星への憧れだけに突き動かされて、望遠鏡を空に向けた人たち。

別に裕福な人の天文趣味が不純だったというわけではありません。ただ、そうした人たちには、星を眺めることを通じた交友と、議論と、名声とがあり、傍からもその行動は理解可能なものでした。他方、労働者階級の人々にはそうしたものが一切なく、天文学に入れ込んだところで、いや入れ込んだからこそ、形而下の生活はますます逼迫するばかりで、いったい何のために星なんぞ…?と、周囲は首をひねったに違いありません。(そして、そのおかみさんともなれば、首をひねるだけでは済まなかったでしょう)。

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明治の日本にも、高等教育とは無縁なまま、純粋に市井の人として天文趣味に打ち込んだ人がいたかといえば、少なくとも1人います。

その名は、前原寅吉(1872-1950)
本州の北の端、青森県は八戸の人です。
元・八戸藩士の家に生まれ、小学校の高等科を出るとすぐに時計屋に弟子入りして、後に自分の店を持ちました。(その店は今でも八戸で続いています。余談ですが、『銀河鉄道の夜』に出てくる時計屋のモデルはここだ!と、色川大吉氏は大胆に推測していますが、むう…。→ http://sumihan.blog1.fc2.com/?mode=m&no=324

前原寅吉についてまとまった本としては、以下のものがあります。


■鈴木喜代春(作)、三浦福寿(絵)
  『野の天文学者 前原寅吉』
  あすなろ書房、1993

「あとがき」を読むと、著者の鈴木氏が主として参照した1次資料は、寅吉自身が書いた『天文論文集及身辺雑記』、『科学雑記』、『思い出―夕話』、『天文日誌』の4冊で、これらはたぶん刊本ではなく稿本だと思うので、一般に入手できる資料としては、上に掲げた児童書が唯一のものでしょう。

この本に拠って、寅吉の略年譜を以下に書き抜いてみます。

(この項つづく)

【付記】
今見たら、あすなろ書房版の『野の天文学者』は既に絶版のようです。現在は、らくだ出版から出ている『鈴木喜代春児童文学選集』の第6巻(2009)として入手可能。以下の引用や記述は、すべてあすなろ書房版に基づくものであることをお断りしておきます。

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