化石趣味をさらにさかのぼる(2)2011年02月22日 21時51分39秒


『化石の世界』 口絵。「古生代、石炭紀森林の想像図」。

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結論から言うと、この本には採集と標本作りに関する話は全くありません。いわば純粋な“読み物”です。内容は、化石研究史から始まって、始生代、原生代、…、新生代に至る地層と化石のあらましが、バランスよく書かれており、知識の伝達という点では成功しています。ただ、文中に登場する化石は外国産のものが多く、化石をことさらに「身近な存在」と感じさせようという意図は感じられません。

「はしがき」にも、「小学校の上級生や、中等学校の初年生あたりの読物として、化石生物を中心にしたものをとの依頼で、地史学のあらましを書いて見ました」とありますし、本書の末尾には、「何かよい本でもあると諸君におすすめしたいのですが、残念ながら、我国には諸君に適当した本は見つかりません。しかし諸君が早く英語なり、ドイツ語なり、またフランス語なりを覚えて、本が読めるやうになると、面白い本がいくらでもあります」といったことが書かれています。

要するに、当時はまだ化石少年の誕生前夜で、入門的な実践書もなく、いかに理科好きの少年といえども、化石趣味は相当に敷居の高かったことが分かります。

ひるがえって、『化石学習図鑑』の内容を考えると、戦後10年間における地学ブームの過熱ぶりが、いかに凄かったかも分かる気がしますし、その熱気が、その後の宇宙ブームとも連動していたのかな…という想像も浮かびます。

ちなみに、こうした“読み物”的な性格は、「僕らの科学文庫」というシリーズ全体がそうだった、というわけではありません。中には『僕らの理科実験』(昭和16)のように、全編これハウツーという本もあったので、やはり、これは化石という対象の特性に由来するものだったのでしょう。(好著・『僕らの理科実験』については、またいずれ触れたいと思います。)

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なお、本文の文字組みはこんな感じです。

「カムブリア紀」は「サンエフチュウ」の時代―

古い時代と、古い言葉の取り合わせが、独特の香気を発しています。
まあ、「古さ」のスケールは途方もなく違いますが…