化石趣味をさらにさかのぼる(3)2011年02月24日 21時16分28秒

化石というのは、鉱物と一緒のマーケットを形成しているので、趣味としての化石趣味も、鉱物趣味から派生したのかもしれません。

鉱物趣味の歴史については全く無知ですが、無知なりに思い浮かぶのは、京都の益富地学会館の創設者、益富寿之助(ますとみかずのすけ;1901-1993)氏のお名前です。

益富氏はアマチュアの立場からスタートして、その道を極めた、言わば「鉱物界の牧野富太郎」的人物であり、鉱物趣味の普及にも熱心でした。もちろん、鉱物趣味自体は、益富氏以前から存在していたのでしょうが、偉大なオルガナイザーとしての氏の功績を思うとき、日本の鉱物趣味の発展は、氏の人生行路とシンクロする部分が大きいんじゃないかなあ…と思います。

益富地学会館のサイト(http://www.masutomi.or.jp/index.htm)によれば、益富氏がずばり<日本鉱物趣味の会>という名前の団体を創設したのは、昭和7年(1932)のことでした。(この会は、現在の日本地学研究会の前身だろうと思います。)

で、化石の話につなげると、同会からは昭和18年に『日本化石図譜』という本が出ています。

■鹿間時夫(著)、 『日本化石図譜』
 日本鉱物趣味の会出版部、昭和18年(1943)

こうした‘趣味’を謳った本が、しかも英米の書籍からの引用を満載した本が、時局柄よく出たなあと思いますが、本書は<日本鉱物趣味の会>の発足と同時に創刊された『我等の鉱物』誌での連載記事が元となっており、序文の日付も昭和16年6月なので、出版準備自体は前々から進んでいたのでしょう。

序文によれば、本書出版の動機は、化石について「邦語で書かれた通俗的な図譜」、「入門者の為の手引き」がぜひ必要だということであり、「初学者にとり幾分の参考になる所あれば編者の欣快此に過ぎるものは無い」と述べられています。

子ども向きの本に限らず、大人向きの本にしても、戦前は寥々たるものだったことを改めて知ります。

   ★

以下、内容見本です。
本書の中心となる図版編は全部で46ページ。


本文中にも多くの図が載っていますが、何となくバタ臭いのは、外国の本からの転載が多いせいでしょう。


そのいっぽうで、「カンブリア紀」は「寒武利亞紀」、ジュラ紀は「侏羅紀」。何とも時代がかっています。字面からして、いかにも見慣れない生物がウヨウヨいそうです。


   ★

ときに、ネットを検索していて思ったことですが、鉱物マニアの方には、本能的ともいえる「発掘癖」があるのか、いろいろと歴史資料の探索にも手を伸ばし、ディープな「鉱物趣味‘史’」にのめりこまれている方が少なくないようです。
たとえば、以下のようなサイト。

■鉱物趣味の博物館 http://www2.odn.ne.jp/~aab06570/
■最新鉱物産地情報(2001~2002年) http://mineralhunters.web.fc2.com/

そのマニアぶりに驚きを禁じ得ませんが、天文趣味の人で「天文趣味‘史’」に関心を示す人はごく少ないので、分野によって、マニアのメンタリティはずいぶん違うものだなあ…と改めて思いました。