天使と悪魔 ― 2011年06月07日 21時24分23秒
昨日の夕刊に「反物質」の話題が載っていました。
東京大学や理化学研究所などの国際研究グループが、電気的性質が通常とは逆の「反物質」の一種、「反水素」原子を1千秒(約16分間)閉じこめることに成功した。〔…〕反物質は物質とぶつかると、大量の熱エネルギーを放出して消えてしまうため、磁気を利用した真空の装置の中で、壁などにつかないよう、宙に浮かせて閉じこめる必要があった。
…という内容。最近、地上波で放映された「天使と悪魔」(ダヴィンチ・コードの続編映画)をまざまざと思い出しますが、記事もその点に言及していました。
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ところで、「天使と悪魔」というタイトル。
これは、物質と反物質のメタファーなのでしょうか。
あるいは、さらに人間の心にひそむ光と影とか、“客観的事実”も、見る角度によって正反対に見えることもあるとか、いろいろな意味を含んでいるようにも感じます。
「人間の認識や概念は、常に相対的なものでしかない。」
「悪魔がいるからこそ天使もいるし、その逆もまた真である。」
こうした言い回しはあるいは陳腐かもしれませんが、でも確かに真理だと思います。
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仏家の説に曰く、認識の相対性を看破し、差別の念を滅却するとき、そこに悟りがあり、涅槃があるのだ、と。
「さすれば!」 と、熱病に浮かされたように、街頭で熱弁をふるう男の姿が、先日都内某所で目撃されました。「物質と反物質が対消滅するとき、存在は一種のニルヴァーナに達するのであります! 宇宙創成のとき、世界は大いなる光とニルヴァーナに満たされておりましたが、時空に生じたわずかな歪のために世界に迷妄が満ちあふれ、我々のあらゆる苦悩もここに出来(しゅったい)するのであります!! 人々に究極の救いをもたらすもの、それこそが反物質であります!!」
人々の嘲笑をよそに、男はさらに狂的な観念に取り付かれ、ついには某研究施設に侵入し…というような、「天使と悪魔」の東洋的バリエーションを考えてみたのですが、どうでしょうか(梅雨に入ったせいか、脳がだいぶカビてきたようですね)。
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さて、今日のモノは、M.C.エッシャー作の「天使と悪魔」(この作品には、いろいろなバリエーションがあります)を立体化した品。
作ったのはオランダのParastone(http://www.3d-mouseion.com/en/)というメーカー。同社の商品は、これら名画の3Dシリーズが大受けして、近頃あちこちのミュージアムショップで見かけるので、ご覧になった方も多いでしょう。
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「だまし絵」でくくられるエッシャーですが、
その作品は、数学的テーマを内包していることが少なくありません。
端的に、「絵画化された数式」を見るような思いがするときすらあります。
理知的であり、神秘的であるところが、まさに数学的だと感じられます。
(この記事のために、「数学」のカテゴリーを新設しました。)
コメント
_ S.U ― 2011年06月08日 08時05分43秒
_ 玉青 ― 2011年06月09日 18時30分14秒
決して触れ合うことのできない2つの世界。
触れ合うことができないからこそ、思いは彼方の世界に飛びます。
考えてみれば心の世界もそうかもしれませんね。
心と心が触れ合うことは可能なのかどうか?
皆、触れ合っていることを前提に行動していますが、原理的に検証不可能なので、本当のことは永遠に謎です。
まさか、本当に触れ合うと「対消滅」してしまうなんてことはないでしょうが…。
まあ、人間の社会は、それ自体一種のパラレルワールドだと、言って言えないことはないのかも。
触れ合うことができないからこそ、思いは彼方の世界に飛びます。
考えてみれば心の世界もそうかもしれませんね。
心と心が触れ合うことは可能なのかどうか?
皆、触れ合っていることを前提に行動していますが、原理的に検証不可能なので、本当のことは永遠に謎です。
まさか、本当に触れ合うと「対消滅」してしまうなんてことはないでしょうが…。
まあ、人間の社会は、それ自体一種のパラレルワールドだと、言って言えないことはないのかも。
_ S.U ― 2011年06月09日 21時10分40秒
アァ、人の心。 そりゃもうパラレルワールドそのものですゎ(笑)。
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私は映画を見ていないのでわかりませんが、物質と反物質のメタファーなのでしょうね。もともとは、人間の知恵の利用の明暗面を指したものでしょうから、それでも十分です。
物質と反物質はほぼ対称ですが、共存できないので、エッシャー図学的に考えると、その境界ははっきりしていて、そこでは対消滅反応が盛んに起こっているか、あるいは真空でたがいに隔離されていないといけません。いわゆるパラレルワールドとは違います。
しかし、物理学的には、パラレルワールドも存在し得て、同じ時間・同じ場所に別の世界があって、こんどは逆に互いにほとんど干渉しない、透明人間のように見えないし、ぶつかっても通り抜けるとします。まったく干渉しないなら、観測不能で、あってもなくても同じなので、重力だけを通じて、あるいは、未知の弱い力だけで相互作用するとします。これだと、図学的には、本当にオーバーラップしていることになります。
「天使と悪魔」はどちらなのでしょうか。エッシャーのは前者に見えますが、実際のこの世は後者かもしれません。