星の美と神秘(2)2011年06月16日 22時31分18秒



本業の方で突発的な出来事があり、ちょっと間隔が空きましたが、話をつづけます。

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この本で「おや」と思ったのは、銀河についての話題です。より詳しく言うと、地上の川をさかのぼると銀河に至るという話。

抱影翁の引く例でいうと、『荊楚歳時記』〔6世紀の成立〕に、前漢の人・張騫(ちょうけん)が、いかだに乗って銀河まで遡ったという話が出ているらしい。

改めて『荊楚歳時記』を見ると、七月の条にこのエピソードは出てきます。
漢の武帝が張騫を中央アジアに派遣したのは歴史的事実ですが、700年も経つとすっかり伝説化して、いかだで黄河をさかのぼった張騫が、旅先で牽牛・織女と出会うという話に転化しています。しかも、同じ頃、地上からは二星のそばに客星の出現が観測された…という、もっともらしい潤色まで施されて。

『星の美と神秘』には、さらに『剪灯新話』〔明代の伝奇集〕に出てくる、次のようなエピソードも紹介されています。

成令言というのは元代・天暦年間の人といいますから、今からざっと700年前のこと。
初秋のある日、小舟を千秋観〔というのは道教寺院の1つでしょう〕の下に泊めた令言は、鮮やかな銀河を仰ぎ見て、宋之問の古詩「明河篇」を吟じているうちに、世を捨てて仙人になりたいという思いを抱きます。すると小舟がするすると動き出し、まるで何かに引っ張られるように、一瞬のうちに千里を進み、ついに見慣れぬ場所にたどり着きます。

抱影翁の訓みによって原文をあげれば、寒気人を襲ひ、清光目を奪ふ。玉田湛湛として、琪花(たまのはな)瑶草(たまのくさ)その中に生ずるが如く、銀海洋洋として異獣神魚その内に泳ぐが如し」。

令言はそこで織女と言葉を交わして…と話は続くのですが、翁の引用は途中で終っているので結末は不明です。

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いずれも、地上の川をさかのぼれば、人はいつか銀河に行くことができるという、切なくも美しいイメージが基本にあります。「銀河鉄道の夜」のように、突然、場面が転換するのではなく、地上と天上は切れ目なく連続しているのだ…という観念が、今の私には一層好ましく感じられます。

(この項つづく)