ジョバンニが見た世界「時計屋」編(3)…フクロウ時計2011年11月06日 19時17分47秒

「…時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり…」

なかなか天文アイテムにたどり着きませんが、ゆっくり行くことにしましょう。

この赤い眼をくるくるさせているフクロウの正体は、至極明瞭です。
賢治がイメージしたのは、振り子の動きに合わせて両目がくりくり動く「フクロウ時計」に違いありません。戦前の日本で盛んに作られ、海外にも大いに輸出された品で、賢治も直接目にする機会があったはずです。

下は海外のオークションサイトから適当に引っ張ってきた画像ですが、これも日本製です。


フクロウ時計については、以下のページに詳細な解説があります。

■フクロ発声掛時計:TIMEKEEPER 古時計どっとコム(by kodokei様)
  http://www.kodokei.com/c2_021_1.html#sec01

このページで紹介されているフクロウの造形は様々で、上の写真もそうですが、中には明らかにミミズクと思えるものもあります。ただ、いずれも妙に甘ったるいファンシー調(あるいは中途半端な民芸調)である点が共通していて、今一つ「銀河鉄道」の世界にそぐわない気がします。
賢治があえて「石でこさえた赤い眼を持ったフクロウ」としたのも、そうすることで、より硬質な感じを出したかったのではないでしょうか。

(現実のフクロウ時計は、セルロイド製で黒目がちのクリーム色の眼をしているようです。なお、私はこの個所を、「石でこさえた赤い眼」と解釈しましたが、原文は「石でこさえたふくろう」とも読めます。私が「銀河鉄道」を悪文とけなすわけは、こういう分かりにくさが、あちこちにあるからで、このことはまた後で触れます。)

余談ですが、「赤い眼」と聞けば、賢治ファンは、「星めぐりの歌」に出てくる「赤い目玉のさそり」をただちに連想することでしょう。
「銀河鉄道の夜」の後半の山場である、サソリの自己犠牲のエピソードの段には、「赤い目玉」という表現こそ出てきませんが、主星アンタレスはルビーよりも赤くすきとほり リチウムよりもうつくしく燃えていると書かれています。この硬質な鉱物的表現は、何となく時計屋の場面から、連想の糸を引いているような気がしなくもない。
(我ながら妄説に近づいていますが、でもフロイトやユングの信奉者ならば、ジョバンニの夢を、もっと面白おかしく解釈してみせるでしょう。)

   ★

話を元に戻してフクロウ時計。
賢治が直接イメージしたかどうかは分かりませんが、実はあの場面にもっとふさわしい品があります。下は鳥居龍次氏の『アンティーククロック図鑑』(光芸出版、平成8)より。


同書の記載データによれば、これはドイツのユンハンス社製で、1910年代の製品だそうです。ここで、昨日の「銀河鉄道の時代設定は1912年」という仮説が生きてくるのです。

上記のkodokei氏の考証によれば、日本製のフクロウ時計は、昭和以降のものしか存在が確認できないそうなので、時代や地理的背景を考えると、このユンハンス社製のものは、まさに作品世界にピッタリです。

鳥居氏による記述を、さらに転載させていただきます。
「前面のみ鋳物いぶし銀仕上げで、ガラスの目玉が常時左右に振り、きらきらと輝く。文字盤は銀色金属柄を嵌め込み〔…〕機械は裏の木箱に入っている。テンプ式」(p.122)

図版がモノクロなので、目の色は不明ですが、この硬質な質感が、銀河鉄道の世界に至極ふさわしい気がします。これならば賢治も満足するのではないでしょうか。

   ★

以下はおまけです。
協力してくれる方がいれば、私はこの時計屋の店先をいつか再現してみたいと思っていて、それらしいモノをあれこれ探しています。経済的制約もあり、なかなかピッタリのものは見つかりませんが、たとえばこのフクロウ時計については、以下のようなものを置いてみようかと考えています(戦後の西ドイツ製。本体は金属です)。


これはフクロウではなくてミミズクだし、目は赤でなくて緑だし、目玉がくるくる動くこともないし…要は原作とは似ても似つかぬ代物なのですが、ここは純粋にイメージということで。。。



(ちなみに時計本体も壊れていて動きません。自分で直そうと思ったら、さらに壊れてしまいました。端的に言って「不燃ゴミ」ですが、上の夢を実現するためだけに取ってあります。)

コメント

_ あらかわ ― 2016年04月10日 08時22分02秒

たまたまこのブログを見ました

一番下の金色のふくろうの時計は動くようになりましたか?
動かない理由は単純な原因であることもあります
同じものを持っていますが、この種の時計は部品が全て揃っていれば修理は簡単です

お金は必要ないですが良かったらお返事をください

_ 玉青 ― 2016年04月10日 17時29分26秒

あらかわ様、お気にかけていただき、どうもありがとうございます。
例の時計は、その後、後継のフクロウ時計が見つかったので、今はお蔵入りの格好になっています。あれも私が変にいじらなければ、修繕の仕様もあったのでしょうが、結局いろいろネジやばねが飛んでしまい、時計には申し訳ないことをしました。

_ あらかわ ― 2016年04月10日 20時49分10秒

そうでしたか

いきなり不審な問いかけをしてすみませんでした

ゼンマイが飛ぶのは本当にバラバラ状態にしたようですね

でも部品が全てあれば、なおります

この頃は本職の時計屋さんでも、この種の時計はなおさない人も多いです

_ 玉青 ― 2016年04月11日 21時17分19秒

一応部品は全部とってあるので、この状態でいつか次の人に引き継ぎたいと思います。

それにしても壊しておいて何ですが、機械式時計を分解するのは興味深いですね。
子供が機械に興味を持つのは、バラす(壊す)経験から始まることが多いような気がしますが、最近の子供はどうなんでしょう。古いPCとか、情報機器でも壊して中を覗くと結構面白いですが、ただ、見ただけではパーツの意味が分からないので、「からくり」への興味は湧きにくいかもしれませんね。

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