ジョバンニが見た世界「時計屋編」(10)…宝石を乗せて回る硝子盤(番外)2011年12月09日 21時23分48秒

さて、「時計屋編」の残りのアイテムは、星座早見、望遠鏡、星座絵と、いよいよ天文趣味の本流に入っていきますが、その前に宝石に関連して、もう一つだけおまけアイテムを取り上げます。

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「銀河鉄道の夜」に出てくる宝石関連の記述として、「水晶の数珠」というのがあるということを、この前ちらりと書きました。それは旅が始まって間もない「北十字とプリオシン海岸」の章に出てきます。

銀河鉄道の旅は、白鳥座が形づくる「北十字」から、南十字星まで、2つの十字架を結ぶルートを走り抜けますが、この2つのポイントは旅の中でも荘厳華麗な、人々の信仰心を揺さぶるものとして描かれています。

北十字の描写はこうです。

「俄かに、車のなかが、ぱっと白く明るくなりました。見ると、もうじつに、金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ、その流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。その島の平らないただきに、立派な眼もさめるような、白い十字架がたって、それはもう凍った北極の雲で鋳たといったらいいか、すきっとした金いろの円光をいただいて、しずかに永久に立っているのでした。」

その荘厳さに打たれて、車中の人々が皆立ち上がり、敬虔な祈りを捧げるというシーンに、「水晶の数珠」は登場します。

そして物語の終盤の南十字では、

「見えない天の川のずうっと川下に 青や橙や もうあらゆる光でちりばめられた十字架がまるで一本の木という風に川の中から立ってかがやき その上には青じろい雲が まるい環になって 後光のようにかかっているのでした。汽車の中がまるでざわざわしました。みんなあの北の十字のときのように まっすぐに立ってお祈りをはじめました。」

以前、プラネタリウム番組の「銀河鉄道の夜」(http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/11/26/4722590)を見たときも、この2つのシーンはとても印象的でした。
冷たい白光を放つ北十字と、色鮮やかな光に満ちた南十字。

ここに出てくるのは、キリスト教のシンボルとしての十字架ですが、そのいかにもキラキラしいイメージが、なんとなく華やかな時計屋の情景と結びついているようにも感じられて、たとえばあの店先には、水晶で刻んだ美しいロザリオが飾らており、ジョバンニの夢は、それに触発されたものではないか…と、そんな風に想像してみたりします。(実際の宝飾店の店先に、ロザリオが並ぶものかどうかは定かでありませんが。)

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というわけで、単なる思い付きのようではありますが、銀と金のロザリオを探してみました。(我ながら、この企画には異様に力瘤が入っています。)


白銀の北十字。



きらめく水晶の珠。


「『ハルレヤ、ハルレヤ。』前からもうしろからも声が起りました。ふりかえって見ると、車室の中の旅人たちは、みなまっすぐにきもののひだを垂れ、黒いバイブルを胸にあてたり、水晶の珠数をかけたり、どの人もつつましく指を組み合せて、そっちに祈っているのでした。」


ターコイズをちりばめた黄金の南十字。


「そしてその見えない天の川の水をわたって ひとりの神々しい白いきものの人が 手をのばしてこっちへ来るのを二人は見ました。」

 

「ふりかえって見ると さっきの十字架はすっかり小さくなってしまい ほんとうにもうそのまま胸にも吊されそうになり…」

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以上、「宝石を乗せて回る硝子盤」の番外編でした。
なお、「黄金の…」というのはもちろんイメージで、2番目の品は金製品ではありません。