中国で見た白い建物2011年12月18日 17時35分57秒

先週は中国にいました。
渡航の趣旨は、天文古玩とは縁遠いので割愛しますが、その過程で目を惹く「モノ」があったので、ちょっとメモしておきます。

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旅の途中で立ち寄った場所、蘇州近郊の「華西村」。
日本人が観光で行くことは少ないと思いますが、「中国一の金持ち村」と喧伝され、日本でもテレビで紹介されたことがあるようです。

外部の訪問者の目に真っ先に飛び込むのは、広い庭付きの邸宅が整然と並ぶ町並みです。これらの家に住むのは、高い収益力を誇る、域内工場で働く労働者たちで、ここは職住接近型の町として人工的に構築された、一種のユートピア的な場所なのです。もちろんあらゆるユートピアと同じように、そこには光もあり、同時に濃い影もあることは確かです。

そのことはひとまずおいて、私の目を惹いた「モノ」とは、村内の「世界公園」に立つ、ある建築物でした。「世界公園」というのは、世界中の有名建築物を縮小再現したテーマパークで、この手のものは、ラスベガスにもあるし、日本でもバブル期に地方自治体が手掛けたりしましたが、この村の一種のバブリーなムードを象徴しているのでしょう。

で、華西村にあるのは、ホワイトハウスや、シドニーのオペラハウス、パリの凱旋門、あるいは万里の長城や天安門といった、誰でも知っているものが多いのは当然としても、その中に、なぜか天文ドームをいただく建物がまじっているのが目を引きました。
写真を撮ってこなかったのが悔やまれますが、今ネットで探すと、下の画像の白丸で囲んだのがそれです。

(オリジナル画像は「人民中国」インターネット版掲載。http://www.peoplechina.com.cn/zhuanti/2008-06/27/content_130101.htm

白い直方体のビルの上にドームが乗っています。
「おや??」と首をひねりつつ、同時に「どこかで見たことがあるぞ…」と思って、しばらく考えたら分かりました。これはドイツのポツダムに立つ、「アインシュタイン塔」を模しているのでした。

(↑ウィキメディア・コモンズより)
(以前の関連記事はこちら。http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/04/08/1379783

オリジナルは曲面を多用したドイツ表現主義の代表的建築として知られますが、中国版は四角四面の箱型なので、すぐには両者が結びつきませんでした。でも、帰ってからネットで調べたら、確かにここには「愛因斯坦天文台〔アインシュタイン天文台〕」があると書かれています。

オリジナルとコピーの落差を嗤うのは簡単です。
しかし、なぜアインシュタイン塔なのか?と考えると、その謎は深いです。

華西村は地方の小農村からスタートして、現在は第2次産業主体の町ですから、有体に言ってハイカルチャーとは縁遠い場所です。特に天文好きの人が多い場所でもないし、ドイツ表現主義に造詣の深い人がいるとも思えません。それなのに、なぜこんなマニアックな建物が選ばれたのでしょうか?

あるいは、単純にアインシュタインの名前の響きに惹かれたのかもしれません。
いずれにしても、人々が抱く素朴な科学への夢が、このような形でひっそりと物象化していたことに驚くとともに、オリジナルとはまた別の意味でユニークな(ある意味、一層ユニークな)怪建築として、印象に深く残りました。