ジョバンニが見た世界「時計屋編」(11)…黒い星座早見盤(第1夜)2011年12月20日 20時53分59秒

「…そのまん中に円い黒い星座早見が 青いアスパラガスの葉で飾って
ありました。
 ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。
 それはひる学校で見たあの図よりはずうっと小さかったのですが その日と時間に合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらが そのまま楕円形のなかにめぐってあらわれるようになって居り やはりそのまん中には上から下へかけて銀河がぼうとけむったような帯になって その下の方ではかすかに爆発して湯気でもあげているように見えるのでした。」

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この「黒い星座早見」については、候補となりうる品を以前から心に決めていて、いずれも既出の品です。

候補は今のところ3つあります。
1つは賢治自身が所有していた、日本天文学会(編)/三省堂(発行)の古い星座早見(http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/08/28/)。

あとの2つは、いずれもイギリスのフィリップス社の製品で、1つは19世紀後半~20世紀初め頃に販売されていた古いバージョン、もう1つは1920年代以降に出たとおぼしい新しいバージョンです(いずれも、http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/26/ 参照)。

以上の3品がどんなものかは、リンク先の記事をご覧いただければお分かりだと思いますが、今回は一寸手を加え、大きな画像で再登場してもらうことにしました。

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まず第1夜は、日本のものから。
「銀河鉄道の夜」は、一応外国が舞台らしいので、日本製の早見はそぐわない感もありますが、賢治の脳裏にあったイメージを探る意味で、あえて取り上げることにします。


物語の情景に合わせて、アスパラガスの葉をあしらってみました(造花の葉っぱです。垢抜けない飾り方ですみません)。

この早見盤を見る限り、賢治が「黒い」と表現したのは星座盤のことで、それを覆うカバーの色ではなかったと推測されます(もちろん、その辺は読み手の自由な解釈に委ねられているわけですが)。


淡いブルーのカバーに古風な文字と装飾。
手元にあるのは昭和20年(1945)に出た品ですが、このデザインは明治40年(1907)の初版から変わってないので、いかにも「明治調」というか、アールヌーボー風の味わいがあります。(さすがに古色蒼然として、戦後日本には不似合いと思われたのでしょう、このあと昭和26年には、デザインを一新した新版が出ました。)


北十字(はくちょう座)から、遥か地平線下に流れ下る天の川。
ジョバンニたちは、この流れに沿って旅を続けました。

(この項つづく)