ゆったりとした天文趣味の話(2)…ウォード夫人・前編2012年01月04日 22時50分11秒

三が日も幻のごとく消え去りました。
2012年もすでに1%が経過し、残り99%を切ったわけです。まことに無常迅速。

   ★

さて、話の続き。
元旦に書いたように、この「天文古玩」も近ごろ天文専一というわけにいかず、博物趣味やヴンダー趣味の台頭が著しいです。それはそれで「有り」だと思いますが、とりあえずこの辺で、そういう様々な領域を綜合し、止揚したい気がします。

そのために、前回はジョン・リーの生活スタイルを例に挙げました。彼の場合は、天文学と人文学―あるいは尚古趣味―の調和がテーマでしたが、今日は天文学と博物学をともに終世追求した人として、アイルランドのメアリー・ウォード(1827-1869)をとりあげます。

彼女は、一般に「ウォード夫人(Mrs. Ward)」の名で知られ、著書もその名で上梓しています。アイルランドのバー城に口径100インチの怪物望遠鏡を建設した、ロス伯爵(1800-1867)の従妹にあたる…と聞けば、その生活背景や、知的環境がただちに想像されます。実際、彼女は少女時代にロス伯の望遠鏡を繰り返し覗いた経験があり、バー城を訪れた高名な天文家にも、その知識と才能は深い感銘を与えました。


(メアリー・ウォード、1860年ごろ。ロス伯爵夫人による撮影。伯爵夫人は夫に負けず進取の気性に富み、女流写真家のはしりでした。出典:D.H.Dvidson, Impressions of an Irish Countess, The Birr Scientific Heritage Foundation, 1989)

「しかしながら、天文学は彼女の唯一の関心ではなかった。いや、その第一の関心ですらなかった。彼女の大のお気に入りは昆虫学だった。彼女は熟練した博物学者となり、また植物学や生物学の標本収集家となった。
彼女は〔デイビッド・〕ブリュースター推奨の一台の顕微鏡を所有し、自らの手で美しいプレパラート標本を作り、そして自然界の繊細なスケッチを描いた。
何人も子供がいる家庭を監督しながら、生物学や昆虫学をテーマにした本を著わす時間を見つけ出し、ついには名著・『顕微鏡指南Microscope Teachings』(1864)(後に『顕微鏡 Microscope』と改題)を出したが、この本は何千部も売れた。天文学をテーマにした類書、『望遠鏡 The Telescope』(最初は『望遠鏡指南 Telescope Teachings』の書名で1859年に刊行された)も、同様の成功をおさめ、これまた何度も版を重ねた。」
(Mary Brück 著、『Women in Early British and Irish Astronomy』(2009, Springer), p.97)

(『顕微鏡指南』(1864)。表紙を飾る顕微鏡は、ウォード夫人の愛機。)
(同書に収められた、彼女の手になるスケッチ。)

(この項つづく)

コメント

_ たつき ― 2012年01月06日 01時55分39秒

玉青さま
女性の研究者を描いてくれるとうれしいです突然です。カトリックに縛られながら、彼女たちはやりとげました。では、がんほろ゛うといむ気になれなます。
突然ですか、アストロラーベと天球儀を買ってしまいました。ずっと迷っていたのですが、ここは買うべきだろと決心しました。セカイモンで勝っているのですか、どこまでも広がるライン・ナップあいかわらず脱帽です。
これからも、みちみちみ買いそろえたいと思います。

_ 玉青 ― 2012年01月06日 20時59分07秒

ウォード夫人、素敵な女性ですよね。憧れます。
たつきさんのコレクションもますます広がっていくようで、ご同慶の至りです。

_ かすてん ― 2012年01月08日 10時31分51秒

好奇心に満ちていて、少女時代から科学が好きで、絵が上手で、観測者としても一級で、、、どこかにそんな女性がいましたね。この顕微鏡といっしょに写るウォード夫人の写真、鈴木壽壽子さんを彷彿とさせます。

_ 玉青 ― 2012年01月09日 00時50分47秒

かすてんさんも、そう思われましたか。
私も記事を書きながら、鈴木壽壽子さんのことを思い浮かべました。
小口径を使って立派な観測を続けられたこと、徹底的に自分の目で見、自分の頭で考えられたこと、その点で鈴木さんは「20世紀日本におけるウォード夫人」であり、ウォード夫人は「19世紀イギリスにおける鈴木壽壽子さん」と言っていいかもしれませんね。

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