ジョバンニが見た世界(番外編)…くるみの化石 ― 2012年04月15日 14時12分53秒
ちょっと表題と離れますが、一時休載されていた「スチームパンク大百科」 (http://steampunk.seesaa.net/)が、先月から再開されたことを、大変喜んでいます。
「古雅にして奇」である、そのコンテンツも素敵ですし、また管理人である麻理さんが「身辺日常を、お気に入りの世界に作り替えていく」姿勢を堅持され、日々たゆまず実践されているのを拝見するたびに、とても勇気づけられる思いです。
その最近の記事の中で、麻理さんは理科室趣味をテーマとして取り上げ、東京北区にある不思議なお店 Café SAYA と、そのオンライン店舗である「きらら舎」を紹介されています(手前味噌で言うと、「天文古玩」もチラリと言及されています)。
Café SAYA については、以前「URANOIA」というイベントをご紹介したことがありますが(http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/10/28/5455091)、その後も気になりながら、いまだ訪問の機会を得られない、私にとっては依然夢幻的な場所です。
こういう風に、私の中で気になっている(でも、その色合いにおいて少なからず異なっている)2つのサイトが結び目を作っているのを知ると、「不思議さの自乗」で、不思議さがいっそう際立つ感じです。
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その不思議な気分にあやかって、私も連想で記事を書くことにします。
私自身のもとに「きらら舎」さんから届いたモノといえば、これまで何回か言及した、フジイキョウコさんの快著『鉱物アソビ(Ishi-Asobi)』、それに下のクルミの化石。
もちろん、これを買おうと思い立ったのは、『銀河鉄道の夜』の次のシーンからの連想であることは言うまでもありません(以下、引用は「青空文庫」より)。
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「行ってみよう。」二人は、まるで一度に叫んで、そっちの方へ走りました。その白い岩になった処の入口に、〔プリオシン海岸〕という、瀬戸物のつるつるした標札が立って、向うの渚には、ところどころ、細い鉄の欄干も植えられ、木製のきれいなベンチも置いてありました。
「おや、変なものがあるよ。」カムパネルラが、不思議そうに立ちどまって、岩から黒い細長いさきの尖ったくるみの実のようなものをひろいました。
「くるみの実だよ。そら、沢山ある。流れて来たんじゃない。岩の中に入ってるんだ。」
「大きいね、このくるみ、倍あるね。こいつはすこしもいたんでない。」
「早くあすこへ行って見よう。きっと何か掘ってるから。」
二人は、ぎざぎざの黒いくるみの実を持ちながら、またさっきの方へ近よって行きました。左手の渚には、波がやさしい稲妻のように燃えて寄せ、右手の崖には、いちめん銀や貝殻でこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。
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銀河旅行の途中で、二人の少年が立ち寄ったプリオシン海岸。
「プリオシン」とは、新生代第三紀の「鮮新世」を指す地質学上の用語です。ざっと500万年から260万年の昔。
このクルミも、ちょうどその時代にユーラシア大陸の西の端(付記参照)で実ったもの。
この品は東京サイエンス社から仕入れたものらしく、届いた時には同社標準の灰白色のプラスチックケースに入っていました。しかし、何といっても『銀河鉄道』ゆかりの品ですから、改めてガラスドームにうやうやしく収めることにしました。
このドームはウォッチコレクション用のもので、時計をぶら下げる金具が最初から付属します。そこに針金で吊るしてみたのですが、我ながら、なかなか良い風情(自画自賛)。
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ときに余談ながら、『銀河鉄道』の世界では、眼鏡をかけた大学士とその調査チームが、プリオシン海岸で盛んに化石の発掘を進めています。あの人たちはいったい何者なのでしょう? 銀河鉄道に乗って彼岸に達することを許されない、永遠に化石発掘の妄執にとらわれた、業の深い学者の幽魂なのでしょうか?
私はあのシーンを読むと、昔読んだ小松左京の「骨(こつ)」という作品を思い出して、ヒヤッとします。「骨」の舞台も、死の匂いが漂う不思議な世界です。そこで骨の発掘作業に取り組む学者と、その後を継いだ男が最後に知った真実とは…。もう少しで、もう少しで真実に達する…と、憑かれたように、男がつるはしを振るい続けるシーンが、子ども心に怖かったです。
【付記】 ラベルには「Bas-Rhin, France」の産地表示があります。しかし、Bas-Rhin(下ライン;ライン川下流域)が位置するのはドイツ~オランダ国内ですから、「フランス」というのは産地ではなくて、輸出元を示すのでしょう。
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