豊郷小学校に見る、昭和の理科教育空間(4)2012年05月25日 06時02分31秒

いよいよ本連載の本丸、豊郷小学校の理科室に入ります。


左は図画習字室で、右が理科室。
画像が粗くなりますが、臨場感を高めるるために、さらにドンと大きくスキャンしたので↓、クリックして、その内部をじっくりと堪能してください。


教室内には全部で12卓の生徒用机が置かれ、教卓に視線が集中するように配置されています。1卓あたりの児童数は4名で、教室定員は48名。
この理科室の特徴の1つは、何といっても部屋全体がゆったりしていることとで、空間の贅沢さがここにも表れています。

教卓の背後に、壁を隔てて位置するのが理科準備室。理科室とは2つのドアで結ばれています。上の画像では、教卓に向って左側のドア(肖像画の真下)が開いて、その内部がチラリと見えています。

ちなみに、このドアとシンメトリーの位置、教卓の右側に立つ黒い装置は、「理化実験電源装置」で、これぞ戦前の理科室のシンボルともいうべき存在。 例えば、以前も登場した(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/10/01/544600)、京都の室町小学校の理科室にも全く同じタイプのものが置かれているのが見えます(画像を大きなサイズでスキャンし再掲↓)。乾電池やポータブル電源が普及する以前は、こういう物々しい装置を使って、各生徒用の机に必要な電流・電圧を配電していました。


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全体の構造を理解しやすくするために、近畿教育研究所連盟編の前掲書からとった豊郷小学校の理科室平面図を下に掲げます。


階段を上がってすぐが理科室入口。絵葉書では右端に見えるのがそれです。
理科室の右手が理科準備室(斜線網掛け)で、その右下隅の交差斜線部が暗室。理科室の下に「科学室」というのが又別にありますが、ここは一種の「ミニ科学館」のようなもので、テーマを決めて理科教具のディスプレイがされていたようです(後述)。

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さて、絵葉書の画面にもどって、ここでパッと目を引かれるのは、椅子のデザインがいかにも凝っていること。「理科室の椅子」という瑣末なネタについても、このブログでは以前話題にしたことがあります(以下の記事のコメント欄参照)。

■「見せる」理科室(その2)
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/04/29/5050157

そこでも書いたのですが、日本の理科室の椅子には背もたれがないのに、欧米のそれには背もたれがある…という著しい特徴があります。そして日本における数少ない例外が、この豊郷小の理科室で、これはたぶん設計者ヴォーリズの意向が、内部の家具調度の選定にまで及んでいたからではないかと思います。

この清新でハイカラな空間は、その後、全国的な理科室伸長期だった昭和30年代を迎え、理科教育の爛熟ぶりを存分に見せつけてくれます。
次回以降、そのありさまを具体的に見ていきます。

(この項つづく)