豊郷小学校に見る、昭和の理科教育空間(7)2012年05月30日 17時46分55秒

小学校の校舎の周辺には、実にいろいろなモノがありました。
以下に出てくる写真をご覧いただくと、大抵の方は「そういえば…」と思い当たる節がおありでしょう。しかし、「へえ、あれは理科に関係するものだったのか」という方も少なくないはず。

これは世代差、時代差も関係すると思います。

それが作られた場面をリアルタイムで経験した世代ならば、「ボクたち・私たちのもの」という意識を持ちえたでしょうし、先生も鼻高々、熱心に教育に活用されたと思いますが、生徒も先生も代替わりするうちに、だんだんメンテナンスが行き届かなくなり、ついには「意味不明の施設」と化す…ということが全国で繰り広げられたんじゃないでしょうか。(=守成は創業より難し。)

各地の小学校で、雨後の筍のごとく生まれた理科教育施設群を、豊郷小を例に、当時(昭和30年代)の熱気とともに回顧してみます。

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まずはベーシックな栽培編。
小学校には必ず何らかの植え込み、畑や花壇があったと思います。もちろん、あれは単に目を楽しませるためだけのものではありません。

『手引』 曰く、「自然に親しみ科学的な芽をのばすための、第一の施設は、栽培施設」であり(p.64)、それによって、

・植物の生育を継続的に観察して、その生育のようすを知ることができる。
・植物と動物との関係を観察することができる。
・栽培の技術を身につけられる。
・理科学習のための生きた教材が得られる。
・自然に直接に接して、植物に親しみ、植物愛護の念が培われる。
・情操のじゅん化がはかられる。

という効用が、期待されていたのです。(その成果がどうであったかは、皆さん、ご自分の胸に手を当てて考えてください。)

栽培施設というのは、いわゆる「学校園」ですが、これもさらに目的に応じて、以下のように細分化しうると『手引』は述べます(p.67)。

学校園学校の環境整備のために、学年、学級に関係なく全体的に利用される。
学級園学級別の学習のために使用する。
作物園特別な目的のために使用する(水田など)。
栽培園特定植物を栽培する。例えば、水生植物園、隠花植物園、湿地植物園、
      薬草園、雑草園、竹材園、樹木園、熱帯植物園、果樹園などがこれに入る。


私の母校には、学年に応じてアブラナ、へちま、ジャガイモを育てるスペースがありました。あとは一般的な花壇がちょっとと、桜の木やなんかで、立派な植物園はありませんでした。しかし、私は今でもこの3種類の植物を何となく偉く感じますし、見事なイングリッシュガーデンよりも、ダリアや、カンナや、グラジオラス、ヒマワリが、平凡な顔つきで咲いている花壇のほうを好ましく思います。これは間違いなく児童期の刷り込みのせいで、子ども時代の経験の重要性を今更ながら痛感します。

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前口上が長くなりましたが、豊郷小に話を戻すと、同校の栽培施設としては以下の写真が載っています。


手入れの行き届いた、整然とした花壇です。
たしかに立派は立派ですが、5月23日の記事に登場した、広々とした農場を見れば明らかなように、同校の栽培施設の全貌は、こんなものではなかったはずです。おそらく他校とのバランスの関係で、たまたま『手引』では取り上げられなかったのでしょう。

他方、栽培から飼育に目を転じると、同校の充実ぶりは遺憾なく明らかとなります。

(この項つづく。)