Papilio paris、パリの蝶…?2012年06月29日 05時32分15秒

(昨日のつづき)

プレパラートだけではなしに、その美しい姿をそっくり手元に置くことにしました。

この蝶の和名は ルリモンアゲハ。漢字で書けば「瑠璃紋揚羽」ですが、漢字の本場中国では、元の名を生かして「巴黎翠鳳蝶」というそうです(巴黎はパリのこと)。

(産地はジャワ島。明記されていませんが養殖個体でしょう。)

その名のとおり、瑠璃色・翠色の紋様が目に沁みるように鮮やかです。この角度からだと鮮やかな青に見えますが、別方向から見るとエメラルド色にも見えます。


ぐっと近づくと、個々の鱗粉の不思議な配列が浮かび上がってきます。

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それにしても、フランスとは無縁の、アジア南部に生息する蝶が、なぜパリ?
最初はこの洒落た衣装が、いかにもパリに似つかわしいからだろうと、単純に思い込んでいました。でも、よくよく聞いてみると、どうも違うようです。

シドニー大学が作成した以下のページに、関連する記述がありました。

Rational Order: Carl von Linné(1707-1778)
 http://sydney.edu.au/museums/pdfs/Macleay/Linnaeus_Catalogue.pdf

「Ppilio(アゲハチョウ)属の192種に対して、リンネは古代の神話から採った名を与えた。リンネの時代には、科学的著作に古典からの引喩で風味を添えることは、ごく普通のことだった。Papilio 属の場合、それは合理的かつ審美的目的に叶うものだった。関連する複数の種は、たとえばホメロスの『イリアス』のような古典作品における地位や役柄に応じて、一まとめに分類されたが、Papilio 属の場合、リンネはトロイ戦争の場面を一貫して用いた。こうした理由から、「パピリオ・ヘクトル」と「パピリオ・パリス」はトロイ軍側に属し、「パピリオ・アガメムノン」と「パピリオ・デモレウス」はアカイア(ギリシャ)軍側に属するのである。」 (PDFの11ページ)

パリスはトロイ王の息子で、スパルタ王妃のヘレナを奪い、トロイに連れ帰ったことで、トロイ戦争の根本原因を作ったやさ男。
Ppilio paris の名は、フランスのパリではなくて、ギリシャ神話に出てくる、この「パリス」に由来するものだったのです。

だから、昨日の記事には、ちょっと嘘と誤解がまじっています。
しかし、シックな「パリの蝶」も素敵ですが、華麗なる蝶の軍団」というのも、これまた夢のような美しさをたたえたイメージではないでしょうか。

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ちなみに、今ウィキでぱぱっと調べたら、フランスの「パリ」は、ケルト系部族のひとつ「パリシイ族」に由来するそうです。パリシイ(Parisii)とはラテン語で「田舎者、乱暴者」の意。ローマから見た辺境の部族をさげすんでこう呼んだのだとか。