実験の時間(8)…少年よ、物理を究めよ2012年09月12日 22時06分16秒

仕事がにわかに立てこんできたので、記事が思うように書けませんが、とりあえず前々回の続きです。

少年しか登場しない理科室絵葉書。それは物理実験室の光景です。


↑はイングランド東部、フランス対岸のノーフォーク州にある「グレシャム校」の物理実験室。ここは1555年に、イギリスの富商にしてヘンリー8世の廷臣だった、ジョン・グレシャム(1495-1556)が創設した古い学校。現在は共学ですが、絵葉書当時(1910年頃)は男子校でした。

写っているのは、最上級生か、それに近い17,8の若者たちでしょう。
室内は防火のためか、壁も床もレンガが積まれています。教卓と向き合うようなコの字型レイアウトが珍しい。卓上には、精密測定用のケース入り天秤ばかりや、正体不明の電気・磁気関連の実験装置らしきものが見えます。

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下は類例。こちらはイングランド西部のウースターにある、「ロイヤル・グラマースクール・ウースター校」の物理実験室。(なんでも、この学校の歴史は、グレシャム校よりもさらに古く、13世紀に遡るとか。)


同じ時期、同じような場面で、やはり若者たちが電気に関する実験(?)をしています。ただ、並んでいる器具を見ると、みな一斉に同じことをやるのではなく、いろいろなことを、個々まちまちにやっているようです。

これまで登場した、イギリスの他の絵葉書もそうでしたが、実験は基本的に個別に行うもので、グループ実験がほとんど見られないのは、興味深い点です。
日本では先生の号令一下、一斉に同じことを(たいていはグループになって)行う傾向が強いですが、この辺は国民性の差でしょうか。

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100年前の物理実験室には少女が登場しない…とは断言できませんが、どうも管見の範囲では登場しない例が多くて、考えてみれば不思議な話です。
その一方で、少女しか登場しない-ように見える-理科実験室もあるので、まずそれを見てから、理科の分野とジェンダーとの関係を、あらためて考えてみることにします。

(この項つづく)


おまけ

ジョン・グレシャムは、あの「グレシャムの法則(悪貨は良貨を駆逐する)」で有名な、トーマス・グレシャム(1519-1579)の叔父にあたる人物…というようなことを、例によってウィキペディアで調べていて、グレシャム家の紋章は、「The Gresham grasshopper」と呼ばれるバッタ紋(↓)だということを知りました。そのためグレシャム校の校章もバッタなのだとか。

なんでも、昔むかし、ある女性が一匹のバッタに導かれて、草むらで乳飲み子を発見し、その子が長じてグレシャム家の始祖になった…という伝説が、まことしやかに語り伝えられているそうです。ただ、より真実に近い説としては、古い英語ではgrass(草)をgresと綴ったので、Greshamという姓にひっかけて、バッタをシンボルにしたのだろうとウィキには書かれていました(イギリスには、そういう語呂合わせの紋章が少なくないらしい)。

以前、日本における蝶の家紋について触れましたが(http://mononoke.asablo.jp/blog/2012/06/30/6496418)、イギリスにも昆虫の紋章があると知って「へえ」と思ったので、ここに書いておきます。