改めてアンティーク星図の話(1)2012年09月20日 06時20分28秒

「天文古玩」の大きな柱の1つがアンティーク星図です。
その割に、最近星図の話題が乏しかったので、ここらで星図について思いつくことを書いてみます。

   ★

この話題について語ろうとするとき、印象深く思い出すことがあります。
今を去る23年前、平成元年に千葉市立郷土博物館で「星の美術展」というのが開かれました。同博物館は、その頃から古星図の収集に力を入れるようになり、世界水準のコレクションを形成するまでになりましたが、その初期の展覧会が、この「星の美術展」です。

(星の美術展・図録表紙)

私は同展をリアルタイムで見たわけではなく、ずっと後になって、当時の図録を手にしただけですが、私が印象深く思ったというのは、この図録の冒頭に、科学評論家の草下英明氏が寄せた一文の内容です。一部を以下に引用します。

「おそらく日本国内でこれだけの古星図、星に関する古美術を集めて展示するのは、初めてではないかと思われる。「星の美術」とここでは云うが、世間一般の方には古星図などを美術品として見て頂けるかどうか疑問であるし、美術関係者の関心はそう高いとは思えない。」

この一文からして、相当時代を感じます。平成元年というのは、私にとってつい先日のことのようにも思えますが、当時は古星図が、非常に珍奇な存在で、人々の日常から縁遠いものであったことがうかがえます。

(同図録より。ゾウィッター天球図。1730年頃刊)

草下氏は、古代~中世の星図の歴史をざっとおさらいした後で、さらにこう続けます。

「このあとはルネサンス以後16世紀の西欧諸国の古星図が花開くことになる。といっても、そうした古星図は、書物の口絵などで一部を見る程度で、実物又はそれに近い摸本、レプリカなどを手に取る機会はほとんど無いのが普通であろう。僅かに「フラムスチード星図」(恒星社刊、1727年フランス版)や「ヘベリウス星図」(地人書館刊、サマルカンド版、ソ連)」ぐらいが日本語版として市販されているだけ、あとはごく稀に稀購書展示会などでちらりと目に触れるくらい、おそろしく高価で私共の手には負えない代物が多い。」

アンティーク星図がいかに高価で入手しにくいものであったか。
天文に造詣の深い「文化人」の草下氏にしてこういう状況だったとすれば、まして一般の人々においておや。まあ、高価であることは今も変わりないですが、モノとしての流通量の変化を考えると、まさに隔世の感があります。

今ではネットのおかげで、古星図の精細な画像をいくらでも(しかも無料で!)見られますし、実物を手元に置きたいと思えば、専門店やネットオークションのサイトにいけば、いつでも購入することができます。それに「高い」といっても、円相場が全然違うので、草下氏が言う「高い」とは次元が違います。(平成元年(1989年)は、円が急に強くなったころで、1ドル130円ぐらいになっていましたが、その4~5年前までは1ドルが250円もしました。)

コレクターの喜びと苦しみは昔も今も変わらないと思いますが、しかしその生態や裾野の広さはずいぶん変わったなあと思います。

…というような懐古談に続いて、以下具体的な話に入っていきます。

(この項つづく)