改めてアンティーク星図の話(2)…マレーの星図2012年09月21日 21時11分51秒

今日も懐古談のつづきのようなものですが、昨日の「星の美術展」図録には、下のような星図が紹介されています(モノクロ図)。


南北両半球の星座を、丁寧に額装したもののようです。
巻末のデータを見ると、

「天球豆図」
「当館蔵 / 作者、年代ともに不明。1700年代の文献のさし絵だったと思われる。天の黄極を中心に南北両半球が描かれ、円の周囲は黄道となっている。小さな天球図で、手彩色、星座の絵柄はオランダのブラウやセラリウスの作った星図のものに似ている。」

…とあります。

平成元年当時、この星図の素性は、専門家にも容易に知れなかったわけですが、この「謎の星図」の正体は、今ではすぐに分かります。なんとなれば、これはeBayで星図を渉猟していれば、最もしばしば目にする星図の一つだからです。
作者はフランスの地図製作者・技術者のマレー(Allain Manesson Mallet、1630-1706)で、これらの図は、彼が1683年に刊行した『世界地誌(Description de l´Univers)』から切り取ったものです。

私も全く同じものをペラで持っています(ただし、未彩色)。


最近の相場は、1枚数千円といったところでしょうか。17世紀の古星図としては、たぶん最も入手しやすいものだと思います。値段の安さは、当時大量に刷られたことの反映で、数多くの地図を収めたマレーのこの『世界地誌』は、当時大評判を呼び、18世紀に入ってからも繰り返し版を重ね、ドイツ語版も出たそうです。

ちょっと論旨がぼけましたが、結局何が言いたいかというと、今ではモノも情報も大量に流通しており、その気になれば、誰でも真正の古星図を手軽に買うことができるということを、改めて強調しておきたいのです。

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ついでですから、マレーの星図の細部を見ておきます。


↑は北天の星座。紙面サイズは14×21センチ、半球の直径は約10センチですから、文字通りの「豆図」ですが、なかなか細かいところまでよく表現されています。(ただし絵柄はマレーのオリジナルではなく、先行する星図のコピー。)


普段あまり紹介されない裏面には、星座の説明が書かれています。



紙に印されたプレートマーク(銅版印刷の際の圧痕)。



紙を光に透かしたところ。針金痕(上下に走る直線)と透かし模様(ぶどう紋?)が見えます。これらは針金簀を使った昔の手すき紙(1800年以前の本は大抵これ)に特徴的に見られる点です。

(以下、ハウツー的な話題をまじえつつ、この項つづく)