ジョバンニが見た世界…美しい銀河の写真(2)2012年12月15日 11時31分36秒

突発事態が続いてちょっと筆が止まりましたが、話を続けます。

1913年に出た美しい銀河の写真集とは、カリフォルニアのリック天文台が公式刊行物として出したもので、撮影はすべて同天文台のE.E.バーナード(1857-1923)が行いました。バーナードは、もちろんあのバーナード星(アルファ・ケンタウリに次いで太陽に近い恒星)の発見者です。

(黒のシャグラン革装に金文字の重厚な表情。本の高さは30センチの大型本です。)

(タイトルページより)

上の写真でも分かる通り、この本に収められた写真それ自体は、1913年よりもずっと以前、1892年から95年にかけて撮影されたものです。

(1913年当時の天文台スタッフ。女性スタッフも全く同格なのが新しい時代を感じさせます。)

出版当時の台長は、分光観測の大家、ウィリアム・キャンベル(1862-1938)。
スタッフのリストには、肝心のバーナードの名前がありませんが、これは彼がリック天文台で活躍した後、1895年にシカゴ近郊のヤーキス天文台に転出したためでしょう。

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さて、肝心の中身を見てみます。
この写真集の体裁は、下のように見開きで、右側に図版、左側に解説が書かれています。

(カシオペヤ座デルタ星付近)

Wの形をしたカシオペヤ座の、左側の「谷」の頂点に位置するのがデルタ星で、固有名はルクバー。右頁の写真(実寸は横17.5cm、たて18.0cm)の中央やや右上寄りに、一際明るく写っているのがそれです。
この写真は、1894年2月2日に、3時間の露出をかけて撮影されました。

(デルタ星周辺接写)

上の写真は、オリジナル図版の一部を拡大したもので、原寸はおよそ5cm×3cmの領域です。その中に、これだけの星を写し込み、そしてそれを印刷で表現しているのですから、これは手放しで称賛してよいでしょう。もちろん学術的にも貴重であり、そして文句なしに「美しい」。

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1913年といえば、すでに写真の複製は、網点(ハーフトーン)印刷に移行した時期です。しかし、この写真集は、無数の微小星を含むその題材からして、網点での再現がまったく不可能だったため、当時存在したあらゆる印刷技法を試した末に、コロタイプ印刷(※)を採用して制作されました。

(※)コロタイプ印刷については、以下に書きました。
  http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/04/25/4266284

そのコロタイプ印刷も、並みの業者では歯が立たず、最終的にシカゴで名人級の職人を見つけて、やっと納得のいくものができたという曰くつきのものです。
撮影から写真集の発行まで、20年近くかかったのは、ひとえに印刷自体がとびきり難仕事だったからです。

そんなこんなで非常に見応えのある写真集なので、もうちょっと中身を見ておきます。

(この項つづく)