明治の Kawaii 博物掛図2012年12月23日 10時08分52秒

(一昨日の記事のつづき)

いとおしい明治の博物掛図。その現物を手元において、その妙を味わう。
常識的には難しい課題ですが、そこは蛇の道はヘビ。
こんな可愛い抜け道がありました。
 

 
松川半山(註解)『博物図教授法(全)』
 岡島宝玉堂、明治16(1883)再版(初版=明治10年)
 18.1×12.3cm

新書版よりちょっと大きいぐらいの、和紙・和本仕立ての本です。
この本は、いわば当時の「先生用虎の巻」で、掛図に描かれた対象を挿絵入りで説明した解説書。そして、ご覧のようにオリジナルの掛図を縮小した、木版多色摺りのミニアチュ-ルが収められています。

昨日のカボチャの掛図も以下の通りばっちり。
 


 もちろんオリジナルほどの細密さはありません。
しかし、この雛道具のような掛図は、愛らしさにおいて、オリジナルよりもむしろまさっているかもしれません。

愛しさのあまり、たくさん写真を撮ったので、いっぱい貼っておきます。
 
(「第四博物図」)

左にちらっと見えているのは、上掲書の続編で、同じ著者による『博物図教授法(動物第四・動物第五・植物第五 全)』(明治16年再版;初版は明治12年)です。

そもそも、明治の博物掛図は「第一博物図」~「第五博物図」の植物篇5図と、「動物第一」~「動物第五」の動物篇5図計10図からなります。
上に書誌を挙げた、『博物図教授法(全)』の初版が出た時点では、後から刊行された「第五博物図」「動物第四」「動物第五」の収録が間に合わなかったので、この3図のために続編が作られました。(したがって両方揃わないと、本当の意味での「全」にはなりません。)
 
(上図の拡大。かわいいキノコたち。)
 
(「動物第一/獣類一覧」。明治の子供が初めて触れたであろう元祖・動物図鑑。)
 
(獣類一覧解説ページより。江戸時代の本草書からあまり隔たっていない雰囲気。)
 
(「動物第四/多節類一覧」。まだ標準和名が定まっていない時期の虫名が興味深い。)
 
(これまた極め付きに可愛い「動物第五/柔軟類多肢類一覧」。)
 

タコノマクラにサルノマクラ。後者は今でいうスカシカシパンのことだそうですが、海の生物には、昔から優しい、ユーモラスな名前が多いような気がします。

   ★

なにもなにも ちひさきものはみなうつくし。(枕草紙)

コメント

_ S.U ― 2012年12月23日 11時43分51秒

まいど植物分類でうるさいことですみませんがお尋ねがあります。前出の掛図のウリ科やナスの「菰果類」とはどういう因縁のものでしょうか。聞いたことありませんし検索してもあまり引っかかりません。それから、菰果類の欄の左上隅のなにやら裂けて中身が赤いのは何という野菜?でしょうか。

_ 玉青 ― 2012年12月23日 14時49分25秒

字がつぶれて「菰」のように見えますが、現物は「蓏」(草冠の下に瓜2つ)となっています。全体では「蓏果(らか)類」。「蓏」とは狭義にはウリの実、広義には草の実を指すそうです。要するに図の上段が「木の実」、下段がウリ科を中心とする「草の実」を描いたものでしょう。

なお、左上の図は「ツルレイシ」、いわゆる「ゴーヤー、ニガウリ」の絵です。完熟して口が開いた状態を描いていますが、当時の日本では青い実を食べる習慣がまだなくて、種の回りの赤い果肉(甘いそうです)をもっぱら食べていたので、この状態で描かれているようです。そのせいで、ツルレイシは夏ではなしに晩秋の季語になっているのだ…というのを、たった今知りました。

_ S.U ― 2012年12月23日 16時22分25秒

蓏果類ですか。そんな字は知りませんでした。ゴーヤーが赤く裂けるとはこれも知りませんでした。左下はナスですよね。これはウリ科じゃなくてナス目ナス科ですが。

_ S.U ― 2012年12月23日 16時49分05秒

>↓ウリ科じゃなくてナス目ナス科ですが。
>↑ウリ科を中心とする「草の実」
すみません。細かいことは言わずナスでもウリでもOKということですね。文句ありません(笑)。

_ 玉青 ― 2012年12月24日 16時14分56秒

いやあ、最初ナスを見落としてコメントを書いてしまったので、実は後から文章を直しました。それにしても、「瓜の蔓に茄子は生らぬ」」と言われるぐらい(?)、瓜と茄子は好敵手のはずですが、品種数はともかく、種類数ではウリ科がナス科を圧倒していますね。

_ S.U ― 2012年12月24日 17時01分34秒

>ナス
 ははは。それはやられました。

 でも、ナス科は背後にトマトとジャガイモという西洋料理界の大物がひかえていますので、ウリ科もうかつに手出しはできないはずです。

_ 玉青 ― 2012年12月25日 06時23分19秒

あはは、そうですね。
それに茄子は、カボチャを「とうなす」と呼んで自陣に引き入れようとするなど、なかなか智略に富んでいるようですから、瓜たちも十分用心した方がいいでしょう。

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