大みそかの調べに乗せて2012年12月31日 16時45分38秒

年末の風物詩、N響の第九演奏会が、今晩8時からEテレで放送されます。
今年の指揮者は、イギリス出身のロジャー・ノリントン。

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フープ博士たちが暮らす、惑星「ファンタスマゴリア」でも、毎年1回、この時期に冬のコンサートが開かれます。


空の上でスノーマンたちが、
巨大な六方晶の氷の彫刻をせっせとこしらえ、
それが地上にゆっくりと落ちてくる晩。


楽団員たちは、深海2千メートルの「ネプチューン・シティ」にそびえる
巨大な巻貝型のコンサート・ホールに集い、
1年間きたえた、すばらしい楽の音を披露します。


コンサート・ホールは送信器を兼ねており、
その音楽を聴こうと、惑星中の人々は巻貝を耳に押し当て…

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1986年に出た、たむらしげるさんの「冬のコンサート」(単行本『水晶狩り』所収)より。
たむらさんの作品世界にも、時代とともに自ずと変遷があるのでしょうが、私としてはこの時期のものがいちばんしっくり来ます。(己の若さを懐かしむ気分も混じっているのでしょう。)

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地上に矛盾が渦巻いた2012年もまもなく終わりを迎えます。

こうして巻貝を耳に当てても、残念ながらファンタスマゴリアの楽の音は聞こえません。
でも、美しい世界に憧れる心の向こうに、たしかにファンタスマゴリアは存在するのでしょう。いや、むしろタルホが発見した薄板界のように、それは案外この世界のすぐ隣に在るのかもしれません。

それに…と思います。
心静かに見渡せば、草木も、虫も、鳥も、石くれも、星も、不思議な美しさに満ちあふれており、ファンタスマゴリアにだって、おさおさ引けを取るものではありません。
厄介な人間の心も、深く分け入ってみれば、山あり谷あり泉あり、なかなか興味の尽きない一大世界です。

来年は早くも8年目に入る「天文古玩」。
いささか足取りがヨタヨタしてきましたが、まだまだ杖にすがって、この不思議な世界を旅して回ろうと思います。気が向いたときには共に歩み、言葉を交わしていただければ幸いです。

それでは皆さん、よいお年を!